氷海の伝説:イヌイットの伝説を映画化

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2001年のカナダ映画「氷海の伝説(Atanarjuat The fast runner)」は、イヌイットの伝説をもとにした作品である。自身がイヌイットというザカリアス・クヌクが監督し、イヌイットたちを俳優として起用している。

テーマは、女をめぐる男の戦いである。イヌイット社会は、少人数の集団がテント村のようなもの形成して、主として狩猟をしながら生活している。生活空間が比較的狭いので、配偶者を見つけるのがむつかしいのだろう、男の間で女をめぐる争いが生じやすいようである。この古くから伝わる伝説は、そうした争いをテーマにしている。

イヌイットの生きる広大な雪原地帯が舞台だ。イヌイットたちは、犬ぞりを駆使して雪原を移動し、アザラシやカリブーを捕らえて生活している。動物の肉は、だいたいがナマのまま食うようである。狩猟には技術がいるし、いつも獲物がいるとは限らない。だから狩猟がうまくいくかどうかは、死活問題だ。狩猟の下手な男は女からは相手にされないし、場合によっては餓死する危険にも見舞われる。そういう厳しい条件のなかで、女をめぐる男の戦いが展開されるというわけだ。

まず一人の女をめぐって二人の男が対立する。その女は酋長の息子オキと許婚の関係にあったのだが、別の男アタナグユアトと結婚してしまう。オキはそれが気に入らない。しかしなんとか恋敵と仲良くやっていく。それに加えて、自分の妹を妾にすることを許す。イヌイットは一夫多妻のようなのだ。その妹と本妻とがうまくいかず、それがもとでオキはアタナユグアトとその兄アマグヤックを襲う。アマグヤックは殺されてしまうが、アタナユグアトは逃走する。それも広大な雪原を真っ裸で走って逃げるのである。アタナグユアトとは、「早く走る人」という意味なのだそうだ。その走りっぷりを映すところがこの映画の一つの見所である。

逃げ延びてしばらく隠れていたアタナグユアトは、村に戻ってくる。かれが隠れていた間に、妻はオキに強姦されていた。オキは彼女を正式の妻にしたかったのだが、イヌイット社会では、人妻に手を出してはいけないという格律があり、酋長である父親がそれを許さない。そこでオキは父親を殺してしまうのである。

そういう背景もあって、オキは村の皆から煙たがられている。そんなオキをアタナグユアトは叩きのめすのだが、殺しはしない。イヌイットの社会では、互いに殺しあうことを許すほどの余裕はないのだ。

こんなわけで極めて単純な筋書きだが、見るものをひきつける魅力には富んでいる。170分に及ぶ大作だが、時間の長さを感じさせない。イヌイットの生活ぶり自体が、我々の好奇心を刺激するからだろう。なかでも興味深いのは、一夫多妻の家族が一つのテントで寝起きすることだ。狭い空間に二人の女が一人の男を共有するわけだから、感情のぶつかり合いが起こるのは避けられない。それが悲劇を呼び込むのだが、だからといってイヌイットは、別の選択をしようとはしない。そこが我々には珍しく映る。





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