世界史の試練:雑誌「世界」のウクライナ戦争特集

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雑誌「世界」の最新号(2023年3月号)が、「世界史の試練ウクライナ戦争」と銘打って、ウクライナ戦争を特集している。「世界」は過去二度ウクライナ戦争を特集した。戦争が始まった直後と、それにすぐ続く臨時増刊号(「ウクライナ侵略戦争ー世界秩序の危機」と銘うつ)だ。最初の特集では、ロシアがウクライナに侵攻したことに、一定の理解を示すような論説もあったが、臨時増刊以降は、ロシアによるウクライナ侵攻を、明確に侵略戦争と定義し、ロシアを批判する内容の記事が紙面を埋めるようになった。三回目の今回の特集では、ロシアへの批判を基本としながら、なぜロシアが戦争に訴えたか、それを考えさせる記事も含まれている。

池田嘉郎、宇山智彦、浜由樹子による鼎談「プーチンのロシアは何を夢見るか?」は、今の日本人がウクライナ戦争について抱いている気持ちを代弁したような内容だ。それは、今回の戦争はロシアによる侵略戦争であって、ウクライナは理由もなく攻撃されたのであり、悪いのはロシアだから、ロシアを懲らしめねばならないというものだ。なにしろ今の日本では、そういう気持ちを断固表明したうえでなければ、話にならないといった雰囲気が充満している。この三人もそうした気持ちを共有しているようである。宇山は「他の主要国が二〇世紀半ば以降していない戦争を、二一世紀にしているというのは特異です」といって、ロシアの特異性を強調しているし、池田は「今日の国際世論の一部分においてロシアの立場に理解を示そうとする言説が強く出ていることに驚きを覚えました」といっている。また、浜は「もしロシアが勝てば世界秩序を大きく傷つけますが、中途半端に負けて復讐心をひきずるような事態も危険です」といって、あたかもロシアを徹底的に痛めつけるべきだというようなニュアンスのことまで言っている。そういう言い方をすると、ロシアの存在自体を否定するということになりかねない。

塩川伸明へのインタビュー記事「この戦争は何であり、どこに向かっているか」は、この特集のなかでは唯一、ロシアの立場に一定の考慮を感じさせるものだが、塩川は一方で、ロシアが西側に追い詰められと感じたことが今回の行動につながったといいながら、やはりこの戦争は「ロシアによる侵略戦争とウクライナによる防衛戦争だ」と強調している。どんな事情があるにせよ、侵略したロシアが悪いというわけだ。しかしながら、悪いのはロシアでウクライナは被害者なのだから、ウクライナはどんな犠牲を払っても反撃を続けるべきだと(傍から見ている者が)いうのは、もっと犠牲を払えというに等しい、とも指摘している。そこに塩川なりのバランス感覚を感じ取ることができる。

西谷公明の小文「されど、"停戦を呼びかけよ"」は、岸田首相に向けての提案という形をとって、停戦への展望について語っている。西川が言うには、「いま最も優先すべきは、この戦争を早く終わらせること。プーチン大統領とゼレンスキー大統領にそれを期待することができないとすれば、それこそが西側リーアーの役割であるべきだと考えます」と言って、岸田首相にその役割を果たすことを求めているのだが、いきなりそう求められた岸田首相とすれば、それは無理難題だと思うのではないか。

ロシアを非難してウクライナに肩入れする西側(日本を含めて)の論調に欺瞞を見るものとして、小山哲「ポーランドからみた『ウクライナ侵攻』」と岡真理「『人権の彼岸』から世界を見る」がある。前者は、ポーランドがウクライナからの難民を受け入れている一方、シリアから来た難民を国境で追い返していることに、ダブルスタンダードを見ているし、後者は、西側がロシアによるウクライナへの侵略を戦争犯罪といって糾弾するかたわら、イスラエルによるパレスチナ人への暴力については黙認していることについて、それを二重基準だといって批判している。岡の指摘には深刻な意義があると思うので、それについては別途取り上げ、あらためて論評したいと思う。

野村真理「西ウクライナで古都リヴィウが見てきたこと」は、なぜポーランド人がウクライナ難民を快く受け入れているか、その背景について分析したものだ。小生は、ポーランドとウクライナの間には歴史的な因縁があって、互いに含むところを多く持っていると考えていたので、今般ポーランド国民がウクライナ難民に示した行為は非常に意外に映ったくらいだ。この小文は、その背景について、うがった見方をしている。ポーランドは歴史的な事情から、ロシアを非常に警戒している。そのため、ロシアと直接国境を接することを避けたいと思い、その考えに基づいて、ロシアとの間に緩衝地帯を設けたいとする政策をとってきた。具体的には、リトアニア、ベラルーシ、ウクライナを独立国家とさせ、ロシアからの脅威の緩衝地帯とする政策を追求してきたというのだが、その政策の趣旨をポーランド国民はよく理解し、ウクライナを支える行動をとったというのである。非常にうがった味方で、それがもし本当だとしたら、ポーランド人は善意ばかりでなく、自分の利害にたってウクライナ難民を受け入れてきたということになる。






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