ドキュメンタリー映画「フード・インク」:アメリカの食料を支配する巨大企業

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2008年のアメリカ映画「フード・インク(Food, Inc. ロバート・ケナー監督)」は、食料の生産・流通・販売をめぐる巨大企業の影響力とそれのもたらす深刻な社会的弊害をテーマにしたドキュメンタリー映画である。タイトルの「フード・インク」とは、そうした巨大企業を意味する言葉である。それらがもたらす弊害は、農薬による健康被害、ファストフードの普及に伴う肥満問題、労働者や契約農家の奴隷的境遇、そして世界の食料需給のアンバランスなどといった現象として現れる。この映画はそうした現状に警鐘を鳴らし、健全で持続可能な食糧供給システムの構築を訴える作品だ。

映画は、食中毒で死んだ少年の母の無念を紹介することから始まる。この少年は、O157による食中毒が原因で死んだのだが、それを生産販売した企業は全く責任を取ろうとせず、また、政府も企業の責任追及には及び腰だ。政府が企業によって支配されているからだ。企業は、自分の責任を追及する人々に対しては、分厚い法律顧問団を使って徹底的に戦う。逆に企業の儲けを損なうような連中に対しては、こちらから攻撃を仕掛け、相手を圧倒する。アメリカは、そうした一部の巨大企業によって支配されている、というメッセージが強く伝わってくるように作られている。

企業の支配がもっとも強く貫徹されているのは、生産分野だ。さまざまな種類の食料ごとに、ごく少数の企業が圧倒的なシェアを占める。その理由は、生産コストの削減だ。コストを徹底的に抑えることで、競争を勝ち抜き、その結果少数の限られた企業が独占的な地位を占めるに至る。そうなると、企業は思いのままにふるまうことができる。食料分野の生産は、数多くの農家を組織することで成り立つので、企業は農家の支配にむけて様々な戦略をめぐらす。その戦略に個々の農家が挑戦することは不可能である。企業の言いなりになる農家だけが生き残り、反抗する農家は没落する。

少数の大企業が食料の生産分野に独占的な影響力を及ぼすようになると、さまざまな悪影響が生まれる。農薬への過度の依存とか、ファストフードの普及に伴う栄養面のアンバランスなどといった現象だ。とくにファストフードの普及は、肥満とか糖尿病の最大の原因となっている。肥満や糖尿病は、貧乏人の病気と言われるが、それは、大企業が安い価格でファストフードを提供するシステムを作り上げた結果だ。何しろアメリカ人の三分の一が糖尿病患者かその予備軍と言われているのだ。

一方で、有機農業に取り組む人々の努力も紹介される。かれらにとって有機農業は唯一の持続可能な農業のあり方だが、現実には、普及する可能性を持っていない。巨大企業が、それを阻害しているからだ。それでは、地球の未来は明るくならない。地球にやさしい本来の農業を追求することこそ求められている。そんなメッセージを発しながらこの映画は終わるのであるが、はたしてどれほどのインパクトをこの映画が持ちえたかについては、はなはだ心もとないというのが、実際のところであろう。






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