ジョン・フォード「アパッチ砦」:騎兵隊の敗北

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ジョン・フォードの1948年の映画「アパッチ砦(Fort Apache)」は、戦後の彼の西部劇三部作の最初の作品。テーマは、カーター率いる騎兵隊が、アパッチ族との戦いに敗北して全滅した事件だ。カーターはじめ登場人物の名前は変えてあるが、実際に起きたことをモデルにしている。これは、経験不足の指導者が、アパッチの実力を軽視して無謀な作戦をたて、殲滅されたという事態を踏まえたもので、西部劇としてはめずらしく、インディアンの前に白人が屈服するというテーマである。そこに、ジョン・フォードの冷めた視線を感じさせられる。

ジョン・フォードを含めてそれまでの西部劇がインディアンと称されるアメリカ原住民を描く時には、正義は白人側にあり、野蛮なインディアンは殺されて当然だという視点が働いていたものだった。ジョン・フォードはそうした白人側の視点を相対化させて、偏見に満ちた白人が自ら正義を踏みにじってインディアンを攻撃しようとして、かえって迎え撃ちにあったというふうに描いている。

騎兵隊の隊長をヘンリー・フォンダが、かれの指揮下の士官の一人をジョン・ウェインが演じている。フォンダの演技はそれなりに気合が入っているが、ウェインの演技はあいかわらずの大根ぶりである。しかしその大根のウェインが、思慮のないフォンダに説教を垂れるというふうになっている。ウェインは、丸腰でアパッチの指導部と会談し、停戦にむけた地ならしをするのだが、無思慮なフォンダがインディアン撲滅にこだわり、かえって自滅するというような内容である。

クライマックスを含む後半部分は、騎兵隊とアパッチとの駆け引きとそれに続く戦闘場面をうつしているが、前半部分は、騎兵隊における生活ぶりを描いている。騎兵隊の根拠地であるアパッチ砦は、兵営というよりは、ちょっとした町であり、そこでは兵士のほかに、兵士の家族や、商人も暮している。もっともその暮らしは、戦闘を前提としたものなので、普通の意味での日常ではない。毎日が戦争を予感させるのである。だが、その戦争は、白人がインディアンを撲滅するためのもので、要するに白人による侵略戦争である。だから人は、普通の感覚では、それに正義を見るわけにはいかないはずだが、アメリカの白人にとっては、インディアンを殺して白人の安全を確保することが正義だとされていた。そうした白人の身勝手な言い分を相対化させたというのが、ジョン・フォードなりのやり方だったといえる。






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