ダルデンヌ兄弟「サンドラの週末」:雇用をかけた戦い

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ダルデンヌ兄弟の2014年の映画「サンドラの週末(Deux jours, une nuit)」は、ベルギーにおける零細企業の労働争議のようなものをテーマにした作品。病気を理由に解雇されそうになった女性が、雇用の確保を求めて戦う姿を描いている。その戦いぶりが、自分と家族の生活をかけたぎりぎりの立場から迫られているというのが、この映画がもっとも考えさせる点だ。この映画の中の主人公の女性や、彼女とかかわりを持つ人々の、ぎりぎりの生活条件は、もはや、日本を含めた先進資本主義国に共通する問題となっている。だから、この映画を見た人は、他人事には見えなかっただろう。

マリオン・コティヤール演じる女性が主人公だ。彼女は夫と二人の子供たちと一緒に暮らしている。夫一人の稼ぎでは暮らしていけない。ところがうつ病にかかったことを理由に解雇を言い渡される。親しい友人の励ましもあって、社長に掛け合った結果、他の従業員のボーナスを支給しないという条件でなら、彼女を解雇しない。そのために、従業員たちに、ボーナスを返上することを条件に、彼女の解雇撤退を支持する意思を、投票で決めてもらいたいと提案される。雇用の問題を、経営者の責任ではなく、従業員の意思にまかせるというのは、普通はありえないことと思うのだが、ベルギーのような国では、ありうるということらしい。

ともあれ、彼女は、他の従業員たちに、自分の雇用を支持してくれるよう、一人一人説得して歩く。中にはやさしく応じてくれる人もあるが、けんもほろろにあしらわれるケースもある。そのたびに彼女は心が折れそうになり、ついつい精神安定剤を多用してしまう。なにしろ、土日の二日で説得活動を終え、月曜日には投票が行われるのだ。原題は「二日と一晩」という意味で、日本語なら「一泊二日」といったところだが、その二日間で説得を終えなければならない。

説得は一応の成果をあげた。16人の投票者のうち、半数の8人が賛成してくれた。だが、社長の条件は過半数ということなので、賛否同数では条件を満たさない。あきらめかけた彼女に、社長が別の話を持ち出す。半数の人に支持されたのだから、今後のことも考えて君の雇用は維持してやろう。だがいますぐではない、いずれ短期契約の社員の雇用期限がくるから、その際にその契約をうちきって、君を採用しようというのだ。その話を彼女は断る。他の人を首にしてまで、自分の言い分を通したいとは思わないというのだ。そんなことをしたら、人間としての尊厳に反し、自分を軽蔑するようになるだろう。

色々考えさせる映画である。主人公の女性を演じたマリオン・コティヤールは、エディット・ピアフの伝記映画でピアフを演じていたのが印象に残っている。そのさいのコティヤールは、ピアフのイメージに近く小柄な感じだったが、この映画の中では、大柄に見える。






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