ドイツ映画「暗い日曜日」 ハンガリーのホロコースト

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1999年のドイツ映画「暗い日曜日(Ein Lied von Liebe und Tod ロルフ・シューベル)」は、ハンガリーにおけるホロコーストをテーマにした作品。それにハンガリー人が作曲し、世界的な大ヒット曲になった歌曲を絡めている。映画のタイトルと同名のこの歌曲は、人を自殺する気にさせ、事実大勢の人が実際に自殺したことから、自殺ソングと呼ばれた。フランスではダミアがシャンソン風に歌い、アメリカではビリー・ホリデイがジャズタッチで歌った。

映画の前半は、その曲をめぐるエピソードを描き、後半ではナチスによるユダヤ人へのホロコーストを描く。全体としては、ホロコーストのほうに主眼があるが、曲へのこだわりも強く感じさせる。なにしろ世界中で数百人の人が死んだといわれるくらいだから、曲自体のインパクトは強烈なのである。そんなに多くの自殺者が出たのは、第二次大戦前夜のヨーロッパの重苦しい雰囲気が影響しているとの指摘もある。

舞台は、1930年代前半のハンガリー。ブダペストでカフェを経営するユダヤ人アンドラーシュとその愛人イロナが主人公である。かれらのもとに、ピアニストのラズロがやとわれる。ラズロはイロナにひかれ、イロナもラズロを受け入れるが、アンドレーシュとの関係も続ける。こうして奇妙な三角関係が生まれる。一人の女を二人の男が共有するのだ。あるいは、二人の男を一人の女が所有するともいえる。ともあれ、ラズロがイロナのために曲をつくる。「暗い日曜日」である。これが大ヒットする。

そんな彼らのところに、一人のドイツ人の若者ヴィークがやってくる。ヴィークはイロナに横恋慕するが、イロナは受け入れない。ヴィークは傷心して去っていく。だが彼はやがて自分の執念を実現するであろう。

ナチスの勢力が強まり、やがてブダペストはナチスによって支配されるようになる。そこにヴィークが、ナチスの親衛隊将校としてやってくる。かれは早速イロナや二人の男たちに接近し、友人であるふりをする。実は機会を見はからって、自分の執念を実現するつもりなのである。そんなヴィークを、ユダヤ人のアンドラーシュは頼りにする。時分もまたホロコーストの犠牲者になるのをなんとかヴィークの力沿いで免れようとするのだ。

そんなアンドラーシュをヴィークは抜け目なく利用する。ユダヤ人のなかで、金のあるものや社会的影響力をもったものを、うまく逃がしてやろうと持ち掛けるのだ。その話に乗ったアンドラーシュは、多くのユダヤ人を紹介し、そのことで生き延びたユダヤ人も沢山いた。しかし、アンドラーシュ本人は、ヴィークの恋仇であるから、うまいことアウシュヴィッツに送り込んでしまう。もう一人の恋仇であるラズロも殺してしまう。そのうえ、イロナの焦りに乗じて彼女への思いも成就させる。

戦後ナチスの戦争犯罪が裁かれるなかで、ヴィークはユダヤ人を救った恩人として喝采をあびる。それをイロナは許せない。ヴィークが戦後彼女の店を訪れたさいに、彼女は巧妙にヴィークを毒殺して恨みを晴らすのである。

この映画のひとつの見どころとして、ヴィークによるユダヤ人救済のモチーフがある。これは、シンドラーがポーランドで果たした役割と類似している。シンドラーも、人道的な理由からではなく、ビジネスの都合から一部のユダヤ人を生かしたのであるが、それが結果としてユダヤ人の命を救ったことにされた。この映画の中のヴィークもまた、それとほとんど同じようなことをしたというふうに、この映画からは伝わってくる。






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