歌舞伎「夏祭浪花鑑」を見る:片岡愛之助、団七を演じる

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NHKが歌舞伎「夏祭浪花鑑」の舞台中継を放送したものを見た。片岡仁左衛門一座の博多公園で、シテの団七を片岡愛之助が、相棒の徳兵衛を尾上菊之助が、三婦を中村鴈次郎が、舅を中村雀右衛門がそれぞれ演じていた。特に、鴈次郎の演技が、小気味がよかった。先代に顔つきも雰囲気もよく似ている。

この題目は、並木千柳らが人形浄瑠璃の台本として作ったものを歌舞伎に転用したもので、テーマは舅殺しである。強欲な舅が、大事な人の連れ合いを女郎屋に売りわたそうとするのを止めようとして、団七が感極まって殺してしまうというもので、その殺しの場面が全体の最大の見せ場である。その前段として、団七と徳兵衛との友情とか、三婦の活躍とかが舞台を飾る。だが、それらの出来事相互の間には大した関連があるわけではなく、舞台はいきなり舅殺しの段に突入するといった具合である。

延享二年(1745)に人形浄瑠璃として初演されたという。徳川時代の半ばを過ぎたころだが、当時の日本人は、ようやく儒教的な観念が庶民の間にも普及し、尊属殺人は最大の悪とみなされていたようである。どんな事情があっても、尊属殺人は許されない。その尊属の範囲には、妻の親も含まれるから、舅殺しも人倫に反した悪行だった。その悪行を主題としたこのような芝居が、人形浄瑠璃のみならず、歌舞伎としても成功したわけだ。

この題目は、仁左衛門一座のお家芸といわれるもので、片岡愛之助にとっても、団七役は女殺油地獄の与兵衛役とならんで得意としている由である。見せ場の舅殺しの場面では、現物の泥を身にかぶったり、また井戸水を頭から浴びたり、迫真の演技ぶりを見せていた。





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