ミロス・フォアマン「ヘアー」 ベトナム戦争批判のミュージカル映画

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ミロス・フォアマンの1979年の映画「ヘアー(Hair)」は、ベトナム戦争のために徴兵された若者とニューヨークのヒッピーたちの交流を描いた作品。ベトナム戦争への反対運動とかヒッピーといったものは、1960年代後半の事象であり、この映画が公開された1979年には過去のものとなっていた。それゆえ多少時代遅れの印象を与えたことは否めない。原作となった同名のミュージカル作品は1968年に上演されている。その時には鋭い社会批判を感じさせたのだと思う。

ミロス・フォアマンはこの映画を、原作にならってミュージカル仕立てにしており、社会批判よりも、ミュージカルとしての楽しさのほうを重視したのだろう。フォアマンの作品を彩っている演劇的な華やかさが、この映画では全面的に花開いたといった感じだ。歌や踊りを見ているだけで、人を楽しくさせる映画である。ミュージカル映画として上出来ではないか。

オクラホマの田舎の青年クロードが、ベトナム戦争のために徴兵される。かれは是非大都会を見物したいと思っていたので、徴兵事務所に出頭する前に、二日ほどニューヨークに滞在する。そこでかれは気のいいヒッピーたちと出会い、愉快な体験をする。もっともインパクトが強かったのは、セントラル公園で乗馬していた16歳の少女に恋心を感じたことだ。そんなわけでかれは、ニューヨークに滞在した二日の間に、さまざまな体験をし、十分満足して徴兵事務所に赴く。徴兵事務所では、全裸にさせられて身体検査を受ける。かつての日本軍もそうだったから、これは世界共通の徴兵検査の方法なのだろう。

クロードはとりあえずネヴァダで訓練を受ける。そのかれのところへ、ヒッピー仲間が会いに行く。そこで奇想天外なことが起こる。リーダー格のジョージ・バーガーとクロードが入れ替わるのだ。クロードと仲間全員があえるための細工である。ところが入れ替わっている間に、部隊は戦線へ向けて出発することになり、バーガーがクロードの代わりにベトナム送りになる。その結果、バーガーは戦没者墓地に収まり、クロードらがかれの墓参りにやってくるというわけである。

反戦運動とかそれの担い手としてのヒッピー文化とかが、丁寧に描かれているので、当時のアメリカの社会情勢を知るにはいい材料かもしれない。だが、みどころはやはりミュージカルとしての演劇的な要素だろう。劇中で歌われた曲の中には、大ヒットとなったものもある。






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