自由と壁とヒップホップ パレスチナ人の音楽活動を追う

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2008年の映画「自由と壁とヒップホップ」は、パレスチナ人のヒップホップグループの活動を追いながら、イスラエルによるパレスチナ人迫害の過酷さを訴えたドキュメンタリー映画である。監督は、パレスチナ人を母親に持つアメリカ人女性ジャッキー・リーム・サッローム。2000年ごろから約五年間、イスラエル、ガザ、西岸で活躍するヒップホップグループの活動を追った。その間に、第二次インティファーダが起り、パレスチナ人とユダヤ人の対立が激化したという経緯があり、この映画でも、両民族の対立が影を落としている。

イスラエルに住むパレスチナ人のグループDAMが、パレスチナ人のホップグループの先駆けで、その影響を受ける形で、ガザや西岸でもグループが生まれた。DAMは、非常に政治的なメッセージ性を感じさせる曲を作った。たとえば、「誰がテロリスト?」は、テロリストは俺たちではなく、お前たちだと歌う。ユダヤ人が勝手に俺たちの土地にやってきて、俺たちを追い出し、暴力をふるう。そんなやつらをテロリストというのだ、と歌うのである。

この映画を見て驚いたのは、ユダヤ人によるパレスチナ人への迫害が、ガザや西岸だけではなく、イスラエルに住むパレスチナ人へも向けられているということだ。かれらもまた、劣悪な環境で暮らしており、ユダヤ人と人間らしい付き合いはない。バスに乗ると、まるで犯罪者のような扱いを周囲から受ける。これは、インティファーダのために、イスラエル全体が緊張していたという事情もあるのだろうが、それにしても、パレスチナ人はユダヤ人から人間以下の存在として扱われているということが伝わってくる。

タイトルにある壁は、ガザとエルサレムの周囲を囲むもので、高いものは十メートル以上もありそうだ。この目に見える壁のほかに、目に見えない壁があって、イスラエル、ガザ、西岸に暮すパレスチナ人同士が行き来できないにようにされている。また、移動も厳しく制限されており、ガザの中を移動するにも大きな制約があるといった具合だ。ガザは天井のない監獄だとよく言われるが、その監獄を思わせるようなひどい状態が、この映画からは伝わってくる。ガザに限らず、イスラエルとその占領地全体が究極のディストピアと化しているのである。

ミュージシャンの歌はかなり過激な内容で、こんな歌を歌ったら、迫害を受けるのではないかと思う。だが、ネットでかれらの消息を調べた限り、ユダヤ人によって殺された者はいないようである。もっとも、監獄にぶち込まれたものはある。インティファーダの際に投石したことを理由に、10年間の懲役刑を食らったミュージシャンの話が、映画の中で出てくる。

なお2023年10月に、ハマスによるイスラエル市民への攻撃をきっかけに、イスラエルのユダヤ人よるパレスチナ人への無差別大量殺戮といった陰惨な事態が発生した。ジェノサイドというべきものであり、パレスチナ人にとっては、地獄のような状態が現出した。この映画のなかで表現されているパレスチナ人迫害をはるかに超えた、究極のディストピアといってよい。ユダヤ人は理性をかなぐり捨て狂犬のように振舞っている。





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