狂言「文蔵」 温糟粥を食った話

| コメント(0)
buzou.jpg

先日NHKの能楽番組で、狂言「文蔵」を放送したのを見た。これは大名狂言の一つで、シテの長々とした語りが売り物の曲である。そのシテを人間国宝の山本東次郎が演じていた。

太郎冠者が主人に黙ってどこかへ出かけたというので、大いに起こった主人が太郎冠者を懲らしめに行く。ところが、京へ遊びに行ったと聞いて、京のことも知りたいと思い、許すことにして、色々と聞こうとする。そのうち、叔父御のごちそうになったと聞き、何を食ったかと問う。太郎冠者はその名を思い出せない。じらされた主人は、思いつく限りの食べ物の名を言う。朝食ったというので、昆布に山椒、よい茶ではないかと聞くと違うと答える。点心の類でもなく、饂飩.そうめんでもない。熱麦、ぬる麦でもなく、羹の類でもない。玉羹でも勅勘でも、大寒、小寒でもない。だいたい大寒や小寒は食えるものではない。

主人が途方にくれると、太郎冠者は主人の持っている本の中にその名が出てくるという。そこで主人はその本の内容を語りだす。そらで覚えているのだ。それは石橋山の合戦の物語で、主人はそこから真田と股野が戦う場面を語る。朗々とした語りが続き、やがて山場にさしかかる。「老武者一騎、白柄の長刀かい込うで、尾花葦毛の馬に乗り、荻すすきをかきわけかきわけ、真田殿、与一殿と呼ばわる。新吾駈けあい、おことは誰そと尋ぬれば、真田が乳人に文蔵と答うる」という段にさしかかり、太郎冠者はやっと名前を思い出す。食ったものの名は文藏だというのだ。

そんな名の食べ物などあるはずがない。きっと温糟粥のことを文藏と取り違えているのであろう。そこで「釈尊、師走八日の御山出に、御身を温めさせられんがためきこしめされた、温糟粥のことであろう」という。すると太郎冠者はその温糟粥のことでござったと認める。つまらぬことで主人に骨を折らせて憎いやつだと、主人の怒りはまたもや沸き起こるのである。






コメントする

アーカイブ