カミーユ:クロード・モネ

| コメント(0)
monet02.1866.1.jpg

モネは、1866年の官展のために用意してきた「草上の昼食」を未完成のまま放棄し、かわりに恋人カミーユを描いたこの絵に取り掛かった。等身大のこの巨大な肖像画「カミーユ(Camille ou femme à la robe verte)」を、モネはわずか四日間で完成させた。そして早速官展に出展したのだったが、結果は大成功だった。モネはこの絵によって、一躍時代の旗手として躍り出たのである。

この絵が批評家たちに評判がよかったのは、おそらく伝統的な描き方にそっていたからだろう。暗い背景から浮かび上ったモデルは、レンブラントやフランドル派の雰囲気を思わせるし、陰影や立体感の醸し出し方にも、アカデミズムの伝統を感じさせた。それを踏まえたうえで、批評家たちは、たとえばスカートの襞の描き方に見られるような、技法の冴えを称賛したのだった。

この衣装の描き方は、とりわけ当代の審美家たちの感性に訴えたらしく、エミール・ゾラなどは次のように書いて、絶賛した。「これは人形の衣装ではない。夢を包みこむモスリンではない。本当に身に着けられる素晴らしい本物の絹である」。つまり、ゾラはこの絵のリアルさに驚嘆しているわけである。

モネがこのように、伝統的な様式にしたがった肖像画を描くのは非常に珍しいことで、それ以後二度と、同じような絵を描いていない。世間に認められるには、とりあえず世間の常識に従った作品で名声を獲得し、しかる後に自分の才能に忠実な絵を描くようにしよう。そんな打算がモネには働いていたようである。

(1866年 カンバスに油彩 231×151㎝ ブレーメン美術館)






コメントする

アーカイブ