イギリスのEU離脱をどう見るか

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2020年の1月31日を以て、イギリスのEU離脱すなわちブレグジットが決定した。今後一年近い移行期間を経て、来年の始めから本格的な離脱が実現する。これについては様々な意見があるが、小生にもそれなりの考えがあるので、それをここで披露しておきたい。

イギリスがEU離脱に向けた国民投票をしたのは2016年のことだ。その際に首相だった保守党のキャメロンは、まさか離脱案が通るとは思っていなかったといわれる。ということは、イギリスの支配層のなかでも、離脱にむけてのコンセンサスが成立していなかったということだ。そのコンセンサスは、いまだにできていないと言われ、実際国民はブレグジットをめぐって分裂状態にあるというのが実際のところだ。

ブレグジットはEUへの反発がもたらしたといえるが、なにがイギリスにそうした反発をなさしめたのか。EUのこれまでの動きは、いわゆるグローバリゼーションを体現したものだ。グローバリゼーションと言うのは、経済的には市場の国際化を意味する。その行き着く先は、世界が単一の市場にまとまることだろう。こうしたグローバリゼーションの傾向は、資本主義経済に内在する傾向の現われだということができる。資本主義は、資本の集中と独占へと向かう傾向を持っており、さらに国境を超えて拡大する傾向ももっている。その傾向の行き着く先は、世界の単一市場への統合であり、その統合された単一市場での、寡占化された資本同志の競争という形をとる。また、寡占化から独占化した資本が労働者を独占的に使うようになるので、資本と労働との対立が、国際横断的に進行する。つまり資本主義というのは、全世界的な規模での独占資本と労働との対立に向って進んでいくものなのである。その最終的な先に、全労働による全資本(独占資本が主体だが)への反抗が革命という形で爆発するというのがマルクスの予言の内容だったように思える。

グローバリゼーションは、全世界的な規模での競争を強いるから、これに勝つ者と負ける者とが当然出て来る。そうした熾烈な競争を通じて、資本の独占化傾向が進んでいくわけだ。理念的に見れば、グローバリゼーションは必然的な流れであり、長期的には誰もその流れを止めることはできない。それを止めようとする者は、グローバリゼーションについていけないと思う勢力であって、そういう意味では、反動的な役割を果たすハメになるのだろうと思う。しかしグローバリゼーションはそうした反動を乗り越えて、前へ前へと進んでいくに違いない。誰もその流れを変えることはできないはずだ。いまのグローバリゼーションは、まだ中途半端な段階にあり、精々欧米とか日本などの一部先進資本主義国を覆っているにすぎないが、やがて中国やインドもそれに深く巻き込まれて、全地球的な規模でのグローバリゼーションが達成されると思われる。そうなった暁には、全世界は少数の勝ち組の独占資本が、国境を超えて全世界の労働者を搾取するという構図が出来上がるだろう。その構図のもとで、全世界の総労働と総資本との対立が先鋭化していくことになるだろう。

ともあれ、グローバリゼーションは勝組と負け組を生みだしていくと思われる。勝組とは資本の競争に勝ち残って巨大独占資本として市場を制したもののことだ。それに対して負け組は、競争に敗れて没落した資本家とか、独占資本によって搾取される労働者たちである。グローバリゼーションの行き着く先には、そうした負け組による勝ち組への怨念の対立という事態が待ち受けているのだと思う。

そこで今回のブレグジットの動きだが、それをどう見るか。イギリスはEUからの離脱を選んだわけだが、誰が何故それを選んだのか、そこをよく見る必要がある。イギリス国内でブレグジットについての広範なコンセンサスが成立していないと言ったが、まず、支配階級内部での利害の相違がある。支配階級でも、十分勝ち組になれる自信がある層はEUに残ることに積極的だという。ブレグジットを選んだ層は、どうも自信がない連中のようである。つまり自由な競争に勝ち残る自信がないので、自分たちに国家的な保護を求めたいと考えている層が、ブレグジットに積極的だったのだと思われる。

一方労働者層は、基本的にはブレグジットにあまり大した意味を見いだしていないようだ。労働者にとってグローバリゼーションは、国際独占資本の強化を意味し、ついては自分たちの境遇がますます悪くなることは予想されても、よくなることは期待できない。といっても、一国経済の枠組みのなかで自分たちの境遇がより改善されるとも思っていないのではないか。だからどちらに転んでも、同じようなものなのだが、しかし一国経済の枠組みなら、政府や資本から一定の譲歩を勝ち取れる可能性は高くなるかもしれない。今回労働者層はブレグジットに多くの票を入れたといわれるが、それにはそのような可能性に対する期待が込められていたのだと思われる。そう言う意味では、イギリスの労働者層も反動的な役割を果たしたということになる。反動的と言っても、価値観を込めたわけではない。グローバリゼーションの傾向に逆らったという意味である。

そうした意味での反動は、すでにアメリカでも起きている。それがトランプを大統領に押し上げた。アメリカと雖も勝組ばかりではない。鉄鋼産業をはじめとする伝統的な産業は国際競争に敗れて負け組になっているし、労働者層も自分たちは負け組だと思っている。そうした負け組意識を持った連中が、その原因をグローバリゼーションに求めて、トランプのアメリカ一国主義に投票させたのだと思う。そうした流れが今後拡大していくのかどうか。短期的にはグローバリゼーションの流れを押しとどめる動きが見られても、長期的にはグローバリゼーションは拡大進行していくだろう。それが資本主義に内在する傾向だからだ。





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