カラヴァッジオは、ダルピーニのもとにいた時、多くの人間と知り合いになった。画商のヴァランタンもその一人だった。カラヴァッジオをデル・モンテ枢機卿につなげたのもヴァランタンだとされる。ヴァランタンはカラヴァッジオの多くの作品を売りたてる一方、売れる絵の制作を強く勧めた。当時よく売れた絵と言えば、宗教画だった。ジュビリーを控えて、需要が多かったのである。
カラヴァッジオは、ヴァランタンの勧めに応えて、宗教画の制作に取り組むことになった。その転機になった作品が「聖フランチェスコの法悦」である。この絵は、天使の腕に抱かれながら、回心のエクスタシーに耽る聖フランチェスコを描いたもの。完成して、世間に披露するや、大変な反響が巻き起こった。この絵のおかげで、カラヴァッジオは一躍、ローマの一流画家との評判を勝ち取ったのである。
写真の画面では明らかに見えないが、暗い背景の中では、羊飼いたちが火を焚いている。聖フランチェスコを抱いている天使は、「音楽家たち」に登場する人物をモデルにしている。「音楽家たち」の四人の人物のうちの左端にいる若者で、翼を生やした天使の姿で描かれている。その天使の姿のまま、この絵にも登場したというわけである。おそらく、カラヴァッジオとは特別の関係だったのだろう。
聖フランチェスコは、法悦の表情をしているが、このように聖人にエクスタシーの表情をさせるのは、この絵が初めてである。だがこの絵に大きな評判を招き寄せたのは、明暗対比の強烈な色彩感だ。このメリハリのある明暗対比が、バロック美術の登場を高らかに告げていると、多くの美術評論家が指摘している。
(1595年頃 カンバスに油彩 92.5×127.8㎝ ハートフォード、ワヅワース・アテニアム)
・美術批評
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