刺青の女:鏑木清方

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鏑木清方は、金鈴社に出展するかたわら、自分の門下生らが組織する郷土会というものへも出品した。ごく身内の自主展覧会といったものである。そこに出展した一枚に「刺青の女」というものがある。タイトルの通り、刺青を施した背中をもろ肌脱ぎに披露した女の表情を描いている。

姉御と呼ばれて男勝りに渡世するする女は、徳川時代の末頃にはよく見られたようだが、清方の同時代たる大正の世の中には、そう見られるものではなかったはずだ。だからこの絵には、実際のモデルがいるのかどうか、明らかではない。岡本綺堂が「半七捕物帳」を書いたのは大正六年のことで、そこに刺青の女というのがあるそうだから、清方は、あるいはそれを読んでいたかもしれない。

豊満な女の背中や二の腕に、花や蝶の刺青が施されている。女は首筋をシャキッと伸ばし、手ぬぐいを口にくわえて、前方を見据えている。いかにも男勝りの剣幕を感じさせる。

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これは女の上半身を拡大したもの。遠くからみると、女の腕が腹のようにも見えるのだが、こうして拡大して見ると、腕だとわかる。清方は、人物と背景とのあいだに、色のコントラストをもうけず、線で表現しているので、遠目には輪郭が曖昧になるところがある。

(1919年 絹本着色 127.2×50.7㎝ 個人コレクション)






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