
「ゴリアテの首を持つダヴィデ」は制作年代が特定されていない。1606年頃という説もあるし、死の直前1610年とする説もある。死の直前とする説は、ゴリアテのモデルがカラヴァッジオ本人であることに着目する。この絵の中のゴリアテすなわちカラヴァッジオの表情は憔悴しきっており、しかも初老の男のようでもある。1606年ごろのカラヴァッジオからは、こういう表情は想像できない。やはり死を目前に控えた、悩めるカラヴァッジオではないかというのである。
1610年には、カラヴァッジオはサロメの絵も複数描いている。それらの絵にも、切り落とされた男、すなわち洗礼者聖ヨハネの首が描かれており、この時期のカラヴァッジオがなぜか男の首にこだわっていたことを思わせる。カラヴァッジオは、切り落とされた男の首に自分の死のイメージを重ねあわせていたのではないか。
構図はごく単純である。若きダヴィデが切り落としたゴリアテの首を左手でもっている。というか、ゴリアテの髪の毛をつかんで、首を吊り下げるようにしているのである。背景は暗黒で、そこから人物が浮かびあがってくるように描かれている。強烈な明暗対比が売り物のカラヴァッジオの絵の中でも、もっともドラスティックな作品である。

これはゴリアテの首の部分。1610年作だとすれば、このときカラヴァッジオは38歳だった。とても38歳には見えない。死んでいるのだから、精気がないのは当然だが、それにしても死せるカラヴァッジオの目は、魚の目のように無表情である。
(1610年頃? カンバスに油彩 125×100㎝ ローマ、ボルゲーゼ美術館)
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