坪内老大人像稿本:渡辺崋山の絵画世界

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渡辺崋山が肖像画を本格的に手掛けるのは天保時代に入ってからだが、若い頃にも、求められれば応じていたようだ。「坪内老大人像」は、安政元年(1818)、崋山二十五歳の時の作品である。これは一幅に仕立てあがった正本が存在するが、それよりこの稿本のほうが有名になっている。

坪内老大人とは、姫路藩の弓術指南役。崋山とどのような交流があったのかはよくわからない。正本が長く坪内家に伝わってきたことから、坪内側からの依頼だと考えられる。

これは稿本すなわち習作ではあるが、完成度は高い。表情の表現などは、微細にわたっており、しかもトータルとして人物の雰囲気がよく出ている。目つきに、武術家らしい精悍さを感じることができる。

左手に巻物をもっているが、それには「射法本紀」という外題が付されている。弓術の極意を記した巻物であろう。また、右手には筆をもっているが、よくみるとその部分が張り紙になっている。もともと筆を立てて持っていたものを、このように寝かせたのだろう。正本の図柄では、立てているから、完成にあたっては、当初の構想に戻ったということだろう。

(安政元年 紙本着色 82×75㎝ 東京国立博物館)






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