十字軍のコンスタンティノポリス占領:ドラクロアの世界

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「十字軍のコンスタンティノポリス占領(La prise de Constantinople par les croisés)」と題するこの絵は、第四回十字軍の蛮行をモチーフにした作品。フランドル伯ボードウィンに率いられたこの十字軍は、本来の目的であるエルサレムの奪回には関心を示さず、コンスタンティノポリスの占領と略奪にうつつを抜かしたことで知られる。度重なる十字軍の歴史において、最大の汚点となった事件である。

その事件を、ドラクロアがなぜ取り上げたか。じつは、フランス王ルイ・フィリップが、ヴェルサイユ宮殿の装飾用に注文したものだった。ドラクロアは、注文を受けてから二年後に、やっと制作に取り掛かった。どんな構図にしたらよいか、準備に時間がかかったからだろう。

勝ち誇った十字軍の兵士たちが、コンスタンティノポリスの町を蹂躙している様子が描かれている。馬上の司令官にトルコ人の老人がひざまずいて懇願しており、その傍らでは息絶えた若い女に、その恋人らしい男が寄り添っている。また、遠景には武器を振りかざす兵士の姿もあり、殺戮と略奪の陰惨なイメージが伝わってくる。

この作品は、1841年のサロンに出展されたが、評判はよくなかった。色彩が暗く、また陰影にメリハリがないので、平板に見えるという批評が多かったが、実際には、キリスト教徒が暴力集団のように描かれていることに、偽善的なフランス人が反発したからではないか。

一方、ボードレールはこの作品を高く評価し、次のように書いている。「その主題を除外して、その嵐のような、そして陰鬱な調和だけをとってみても、きわめて感動的である。なんという空、なんという海だろうか! すべてが、そこでは、大きな出来事の後のように、騒然とし、また静かでもある。十字軍のいま横切ってきた都市が、彼等の背後に、幻惑的な真実味を帯びて横たわっている。そしてその間に、あのきらめき波立つ軍旗が、澄み切った大気の中で、拡がり、はためいている! 動き回る不安げな群集、武器の響き、衣装の豪奢さ、人生の重大な局面における身振りの誇張された真実味!」(中山公男ほか訳)






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