初夏の夕:上村松園の美人画

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松園は、空襲を受けなかった京都を本拠地にしていたので、終戦の年まで京都にとどまり、制作活動に従事していた。しかし息子松篁のすすめで、敗戦の年昭和20年の2月に奈良の別荘に疎開し、以後死ぬまでそこで暮らした。

松園が死んだのは昭和24年8月のこと。その直前、六月に東京松坂屋で開かれた「現代美術巨匠作品鑑賞会」に「初夏の夕」と題する作品を出展した。松園の絶筆となったものである。

松園の得意とした、若い女性の何気ない姿。その目線の先には、これも松園が生涯こだわった蛍が飛んでいる。この絵を制作した時期が、ちょうど蛍が飛び交う季節だったからだろう。奈良は、京都より自然が豊かなので、蛍もいっそうよく見えたに違いない。

初夏に相応しく、女性の衣装の色は、さわやかなブルー系で統一されている。着物は空色だし、帯は淡い藍色、そして団扇は黄色がかった青である。衣装の色がさわやかなわりには、女性の表情には屈託が現われている。その屈託は、敗戦への後悔からきているのだろうか。松園は国威発揚に協力していたので、敗戦は彼女なりにこたえたのだろうと思われる。

(1949年 絹本着色 62.5×71.3cm 奈良市、松柏美術館)





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