小春と治兵衛:竹久夢二の美人画

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夢二は芝居絵を多く手掛けた。故郷の岡山県邑久が芝居の盛んな土地柄だったので、少年時代から芝居に親しんでいた。その芝居趣味を、絵の世界で表出したというわけであろう。1910年代の半ばごろから20年代の初めにかけて、肉筆の芝居絵を手掛ける一方、庶民向けの版画もヒットした。

「小春と治兵衛」と題したこの作品は、近松の浄瑠璃「心中天網島」に取材した版画のシリーズもの。いざ心中の道行に出発せんとする小春と治兵衛の表情を描いている。小春は花魁姿のまま、治兵衛のほうは手拭いで頬被りをしている。二人とも顔つきは深刻そのものだ。

この版画シリーズは、最初港屋版が作成され、のちに大阪の柳屋から売り出された。上の絵は、柳屋版である。なお、夢二は「心中天網島」がよほど好きだったと見え、ほかに「時雨の炬燵」の場面などの肉筆画も手掛けている。

(1915年 木版画 各30.4×11.8㎝ 岡山市、夢二郷土資料館)





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