森の中の昼と夜:サタジット・レイの映画

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サタジット・レイの1969年の映画「森の中の昼と夜」は、都会で暮らしている若者たちが、森の中で数日間の休暇を楽しむさまを描いている。若い連中のことだから、はめをはずして騒いだり、女に熱をあげたり、また中にはひどい目にあったりするのもいるが、なんといってもバケーションのうえでのことだから、笑ってすますことができる。そんなインド人青年たちの楽天的な生き方を描いたこの映画は、これといって大袈裟な仕掛けがないだけに、この時代の若いインド人の生き方とか考え方がすなおに伝わってくる映画である。いわば同時代のインドの風俗映画といったところだ。

カルカッタで仕事をしている四人の若者が、粗末な車に乗って郊外の森をめざす。どこか適当なところに滞在し、刺激のある体験をしようというのだ。たまたま森の中のバンガロー村を見つけ、そこの守衛に小屋を貸してくれるようたのむ。守衛は、予約がないとだめだと言うが、小金をつかませて、融通させる。かくして小さなバンガローに四人で滞在することになったかれらは、バンガロー村の中をうろつきまわり、刺激を求める。あやしげな女たちとのやりとりとか、近所に住んでいる老人一家との出会いとか、いつくか面白いことが続くなかで、四人のうち三人は気に入った女とねんごろになる。そのうちの一人は性悪な女とかかわりあいになり、女の紐らしい男に攻撃され、財布を奪われるという失態を演じる。

近所の老人のところには、老人の娘という若い女と、老人の死んだ息子の嫁だという女がいた。その二人の女に、別の若者たちがアタックする。若い娘は思わせげに振る舞うのだが、子連れの後家は踏ん切りがつかない。新しい男が欲しいのだが、世間体を気にするとなかなか男女交際に踏み切れないのだ。

そうこうしてるうちに、バンガロー村の管理人がやってきて、正規の手続きをしていないものは即刻立ち去れという。若者たちは困惑するが、老人の娘が助け舟を出してくれる。バンガローの所有者に直談判して、かれらの滞在を認めさせるのだ。

こんな具合に、たいして意味のない出来事が続いていく。だが時間はあわただしくはない。ゆったりと流れていく。そのゆったりとした時間の中で、若者たちや女たちのどうでもよいような交流が進んでいくというわけである。

インド人の家族関係を描き続けてきたサタジット・レイが、なぜ若者たちの他愛ない交際ぶりを描こうとしたのか。なんだかわかるような気もする。サタジット・レイは、家族関係の描写を通じて、同時代のインド人社会についても理解を深めたいと思ったのではないか。その理解は、家族関係のみに限定されるわけではない。若者たちの生き方にもかかわるものだ。





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