赤い目の自画像:萬鉄五郎の世界

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美術学校を卒業した1912年に、萬鉄五郎は意欲的な作品を多く手掛けている。その中には自画像も数点含まれている。「赤い目の自画像」と呼ばれるこの作品は、この年描かれた自画像のうちでもっとも有名なものだ。

マチスぶりのフォーヴィズムにブラックぶりのキュービズムを接合したような作品だ。それに加え、表現主義や未来派の影響を指摘する者もいる。要するにこの頃の鉄五郎は、ヨーロッパの新しい美術運動に強い関心を抱いていたのである。

顔面や衣服の表現にキュビズムの影響が見られる。いつくかの面をつなぎ合わせて、そのことで立体感を表そうというわけであろう。従来、立体感は遠近法とか明暗対比で表現されていたのだが、キュビズムはそれを、面の複雑な組み合わせによって表現しようとしたわけである。

ブラックは色彩よりも形態を重視したが、鉄五郎は色彩に強くこだわった。その色彩感は、ゴッホやマチスに負うところが多かった。そのゴッホやマチスでさえ、人間の目を赤く塗りつぶすようなことはしなかった。そこは鉄五郎の独創というべきである。

(2012年 カンバスに油彩 60.7×45.5㎝ 岩手県立博物館)






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