ジャンフランコ・ロージ「海は燃えている」:海を越えてくるアフリカ難民

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2016年のイタリア映画「海は燃えている(Fuocoammare)」は、イタリア最南端の小さな島ランペトゥーサを舞台にしたドキュメンタリー映画である。島に暮らす人々の日常を追う一方で、アフリカからの難民の苦境を映し出す。この小さな島に、過去40万人のアフリカ人が上陸し、15000人がおぼれ死んだとアナウンスされる。そんなにも大勢のアフリカ人がやってくるのは、アフリカ大陸から最も近いからだろう。チュニジアから50キロしか離れていない。それでも海を渡るのは命がけのようで、大勢の人々が死ぬという。

こんな小さな島でもこれだけ多くの人がやってくるのだから、シチリア島をふくめたイタリア全体では、膨大な数の難民にのぼるだろう。だが映画は、そういうことには一切触れない。島に上陸した難民にどんな将来が待っているかについても触れない。ただ彼らが島を目指してやってきて、それを島を根拠にする政府の出先機関がとりあえず救出するところを映し出すのみだ。 一方、島の人々の暮らしぶりは、漁師の家の少年サムエレを中心に紹介される。島の人々はみな、漁で生計を立てている。少年は祖父母及び父親と暮らしている。父親は時折少年を海に連れ出し、海になれることを教えている。どういう事情か、母親はいないようだ。そのかわりに祖母が少年および家族の面倒を見ている。彼女はまた、深い海に潜って貝などをとってもいる。もぐりかたは、日本の海女とそう変わりはない。大変な肺活量に感心してしまう。 ドラマではないので、劇的な展開はない。そう長くはない期間だと思うが、その間に難民を乗せた船が何隻もやってくる。アフリカはどうやら争乱の季節らしく、おびただしい数の難民が生まれているようなのだ。かれらの出身地は、コート・ディヴォアール、ナイジェリア、リビアなど多岐にわたっており、シリアから来たものもある。かれらはブローカーの餌食になって、高い金を巻き上げられたあげく、粗末な船にすし詰めにされ、この島を目指すのだ。船には動力をつけていないものもあって、波を頼りに何日もかけてやってくる。その間に死んだり廃人になったりする者が絶えない。こんないひどいことが起きているのは、アフリカの政治が不安定だからだということは伝わってくる。 監督のジャンフランコ・ロージは、「ローマ環状線」を作った人だ。とくにテーマを設けずに、人々の日常を淡々と映し出していたが、この映画も、それと同じ手法をとっている。余計なテーマを持ち込まず、ただひたすら事実だけを伝える。そのことで、事実の重みがいっそう強く伝わってくる、というふうに作られている。勝れたドキュメンタリー作品である。




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