
「トランスノナン街(Rue Transnonain)」と題されたこの石版画は、1834年4月にリヨンを舞台にして起こった労働者の運動への大弾圧を告発したもの。この運動は、ルイ・フィリップへの批判的グループ「人間の諸権利協会」が、リヨンの絹織物職工組合を組織して行ったもので、8000人以上の労働者が参加した。それに対して、内務大臣ティエールが軍隊まで動員して弾圧にとりかかり、労働者側に192人、軍隊側にも129人の死者をだすなど、内乱状態といってよいような状況を呈した。
この大弾圧の一環として、リヨンのトランスノナン街における虐殺事件が起きた。ドーミエはその虐殺事件をなまなましく描いたのである。画面の中心には、突然襲われて殺された男の死体がよこたわり、その男に押しつぶされるように小さな男の子が絶命している。また画面左手奥には、横たわった死体の足が見えている。
実に凄惨な光景をリアリスティックに描いたわけだが、ドーミエ自身がこの現場に居合わせたわけではない。あくまで伝聞を通じて想像したものである。なおこの作品は、パリのオーベール紹介のショーウィンドーに飾られ、道行く人々の目をくぎ付けにした。この作品によってドーミエは一躍有名人になる。ときにドーミエ26歳であった。
(1834年 33.9×46.5㎝ リトグラフ)
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