是枝裕和「ベイビー・ブローカー」:児童の人身売買と赤ちゃんポスト

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是枝裕和の2022年の映画「ベイビー・ブローカー」は、是枝が韓国に招かれて作った作品であり、俳優はすべて韓国人、言語も韓国語。要するに日本人の監督を使った韓国映画である。欧米では、映画監督が自国以外の映画の制作に携わるのはめずらしいことではないが、日本ではごく最近の現象だ。是枝はこの前にも、フランスに招かれて、フランス映画を作っているから、国際派の映画監督のチャンピオンのようなものだ。

テーマは、児童の人身売買である。それにベイビー・ボックスを絡めてある。ベイビー・ボックスとは、日本の「赤ちゃんポスト(運営者のはしりである熊本の慈恵病院では<こうのとりのゆりかご>と呼んでいる)」の韓国版のようなもので、韓国では日本よりずっと遅れて2009年に最初の施設が開設された。その施設に置いて行かれた赤ん坊を、人身売買のブローカーが横取りして、赤ん坊を欲しがっている人に売りとばそうとするというような設定の映画である。

人身売買がこういう形で行われていること自体がショッキングだが、赤ちゃんポストに置かれていった子どもを人身売買の金儲けに利用しようとする発想が、実に退廃的であって、そもそもそんなビジネスが成り立つような国があれば、その国はかなり腐敗していると言わざるを得ない。是枝は、日本人として、韓国社会をそうした腐敗した社会として描いているわけで、韓国人からすれば、挑発的にうつるのではないか。

しかもこの映画では、赤ちゃんポストを運営しているキリスト教団体が、組織的に人身売買にかかわっていると匂わせるような演出になっている。韓国で最初に赤ちゃんポストを開設したのはキリスト教団体であるから、この映画はかれらキリスト教関係者を、正面から侮辱しているような印象を与える。というわけでこの映画は、きわめて政治的なメッセージに富んだ内容となっている。その政治性を、是枝本人の判断で持ちこんだのか、あるいは彼を招いた韓国側の意図が反映したものなのか。そこは、小生にはよくわからなかった。

若い女が生んだばかりの子どもを赤ちゃんポストの手前に置いていくことから映画は始まる。その子どもを、ある男が連れ去る。ソン・ガンホ演じるその男は、クリーニング屋を営む一方、児童の人身売買にかかわっているのだ。その男には孤児院で一緒に育ったという仲間がいる。かれらはその孤児院とはまだつながっている。そんな設定ではじまり、母親が子どもを取りかえしに来たところで映画は急展開する。母親はしかし、自分で育てる気持ちはなく、できたらきちんとした人に自分の子どもを育ててほしいと思っている。そんなことから利害の一致した母親と男たちは、なるべく有利な条件で子供を売ろうとする。映画はかれらのビジネスを追うことで展開していくのだ。かれらは買い手を求めて韓国各地をさ迷い歩く。そこがロードムーヴィー仕立てになっている。ロードムーヴィー仕立ては映画に変化を与えるための工夫だと思うが、この映画にはほかにも色々な工夫がしかけてあって、そのため散漫な印象を与える。

工夫の最たるものは、人身売買を摘発している女刑事たちを持ち込んだことで、そのため、サスペンス的な要素が付け加わる。しかも、女刑事らは人身売買の捜査のほかに、或る殺人事件の捜査もしているということになっている。その捜査の結果、母親を殺人犯として逮捕するのであるが、それはこの映画のテーマである児童の人身売買とはほとんど関係のないことなので、余計なつけたしというべきであろう。

かかる次第で、この映画は是枝の作品としては、かなり散漫で緊迫感に乏しい作品になっている。






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