文楽「妹背山婦女庭訓」を見る

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文楽の名作「妹背山婦女庭訓」の見せ場を、NHKが放送したのを見た。この作品は、明和八年(1771)竹本座で初上映された。近松半二ら五人の合作である。そのころまでに、人形浄瑠璃は歌舞伎の人気に押されて衰退ぎみだったのだが、この作品が大当たりをとったことで、人気が復活したといういきさつがある。いわば人形浄瑠璃再興の立役者といってよいものだ。原作は非常に長く、一日かけて演じられた。そこでNHKの放送では、全体の見せ場というべき場面を取り上げていた。雛鳥と久我之助が死んで結ばれる場面である。放送ではこれを、「妹山背山の段」と名付けていた。

相思相愛の雛鳥・久我之助が、曽我入鹿の横恋慕により結ばれることのできないのをはかなんで、互いに死を決意する。雛鳥は母親に首を切ってほしいと頼み、久我之助は父の目の前で切腹するのである。かくして死んだ二人はあの世で結ばれるというような内容である。

江戸時代の芝居だが、飛鳥時代に取材したのは、お上をはばかってのことだろう。それにしては、雛鳥と久我之助の実家が両方とも武士で、久我之助などは、武士の面目を重んじて切腹することになっているのは、芝居ならではの愛嬌か。

この舞台の見せ場は、雛鳥と久我之助が死ぬ場面であるが、当人たちはともかく、親たちの悲嘆の様子が胸を打つように工夫されている。伝わってくるのは、親子の自然の愛情というよりは、儒教的な倫理観であり、その点は時代の制約を強く感じさせる。

雛鳥・久我之助に加え、それぞれの親を含めて四人の主役が出てくるので、それぞれの主役について、人形遣いと浄瑠璃の名人がついて、かなりにぎやかな舞台である。







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