台湾有事と日米中関係

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雑誌「世界」の最新号(2023年9月号)が、「台湾有事と日米中関係」という小見出しで、最近のあやうい日中関係について言及した小文を三つ載せている。いずれも、いわゆる台湾有事は、中国の強い国家意志から考えて不可避だと前提したうえで、日本としてそれにどう対応すべきかについて、論じたものである。

まず、遠藤誠治の小文「『台湾有事』言説の問題点」。これは、日本が台湾有事を言い訳にして軍拡を進めていることに疑問を呈しながら、日本のそうした行動が、アメリカに強いられたものではなく、日本独自の内発的な動機に基づいたものだと論じたものである。遠藤によれば、日本はアメリカに見捨てられるのではないかという不安と、そのアメリカの抑止力の低下という事態に直面して、自身が抑止力を持たねばならぬと考えるようになった。その抑止力は、中国を想定したものであって、日本はそうした政策を正当化するために「台湾有事」を利用しているということになる。

たしかに、日本の一部保守層には、そう考えるものもあるだろう。かれらの主観のうちでは、抑止力をきかせるためには日本自身が重武装する必要があるということになる。だが、それはかれらの主観のうちでのことで、大局的に見れば、日本はアメリカにほぼ全面依存しているのであって、そのアメリカの意向に沿う形で動くほかに、現状としては、選択肢はない。最近の岸田政権の軍拡路線も、基本的にはアメリカの意向に沿ったものと受け止めたほうが、現実にかなったことではないか。

二本目の「相互不信の米中関係」(佐橋亮)は、最近の米中関係が陥っているあやうい状況について論じたものだ。これは米中間の相互不信が高まる中で、まともな意思疎通が困難になり、不測な事態が起きる可能性に警鐘を鳴らしたものだ。米中間の意思疎通が齟齬をきたしていることは、互いに敬意を払えあえないという事態にまで発展している。双方にそれぞれ言い分があっても、互いにそれを理解しようという姿勢が見られない。それではまともな関係を維持することはできないというわけである。

「国際政治の中の台湾」は、台湾出身の研究者劉彦甫と日本人の台湾研究者若林正丈の対談だ。劉彦甫のほうは、台湾人としての立場から、事実上中国からの独立(脱中国化)を意味する現状維持を支持しているのに対して、若林は、台湾住民の独立志向には理解を示しながら、あまり露骨に独立にこだわると、中国をへんなふうに刺激する危険があると言っている。そこに日本を含め、外国(要するにアメリカ)が妙な介入を行うと、事態をこじらせることになると言いたいようである。





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