イギリス映画「リチャード二世」 シェイクスピア劇の映画化 Hollow Crown シリーズ

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2012年の劇映画「リチャード二世( Richard Ⅱ)」は、BBCがテレビ放送用に制作したHollow Crown シリーズの第一作である。このシリーズは、シェイクスピアの歴史劇を映画化したものであり、2012年に「リチャード二世」、「ヘンリー四世第一部」。「ヘンリー四世第二部」、「ヘンリー五世」、2016年に「ヘンリー六世前編」、「ヘンリー六世後編」、「リチャード三世」をそれぞれ放送した。放送の順番は、歴史の順序に従っているわけだ。Hollow Crown という言葉は、リチャード二世が独白の中で吐いた言葉なので、そのリチャード二世をフロントランナーに据えたシリーズを象徴する言葉としてふさわしい。

イギリス国王にはいろいろなタイプの人物がいる。その中でリチャード二世は、あまり評判がよくない部類に属する。どういう風に評判が悪いかというと、実力がないくせに威張り散らし、臣下の信頼を失ったあげく、臣下が担いだ従兄によって王位を奪われた男、つまりイギリスの歴史上もっとも無能な王としてさげすまれているのである。その無能な王が、自業自得で没落する過程を、シェイクスピアは辛辣な視点から描いたのだった。

この映画は、原作をほぼ忠実に再現している。ボーリングブルックとモーブレイの確執から始まり、ボーリングブルックが追放される。リチャード二世は、アイルランドを屈服させるために軍を向けるが、そのための軍資金としてランカスター(ボーリングブクッルの父でありリチャード二世の伯父)の財産を没収し、さらに貴族たちに重税を課す。それが貴族たちを怒らせ、王への反逆へと駆り立てる。かれらは王の従兄であるボーリングブルックを担ぎ、ついに王を屈服させる。こうした流れを追ってみると、リチャード二世は、貴族たちの特権を犯したために、自ら反乱を招いたということがよくわかる。

映画のハイライトは、追い詰められた王が、ボーリングブルックに王位をゆずるシーンだ。この部分は原作でも最大の見せ場になっている。シェイクスピアは、「リチャード三世」で、王位簒奪者の狡猾さを描いた後、この作品では、簒奪される側のくやしさに焦点を当てている。原作では、リチャードが未練がましくくどくどと愚痴をいうのであるが、映画もまた、かれの未練がましい表情をアップで映し出している。

没落した王は、殺される運命にある。リチャード二世もまた、ロンドン塔に幽閉されたのちに、卑しい者の手にかかって殺されるのである。かれの死体は、人型に作られた棺に納められた姿でボーリングブルックの目の前に運ばれる。ヘンリー四世となったボーリングブルックは、自分を脅かす可能性のある人間を葬ることができて、やっと安心する、というわけである。





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