ヘンリー五世 Hollow Crown シリーズ第四作

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2012年のイギリス映画「ヘンリー五世」は、Hollow Crown シリーズの第四作。原作はイギリス人の愛国心を高揚させるものとして、いまだに節目ごとに上演される。ヘンリー五世の勇敢な精神がイギリス人の愛国心を奮い立たせるからだ。一方で、そのヘンリーの愛国心を相対化するような要素も原作にはある。これまで映画化されたものは、だいたい愛国心の側面に焦点を当てたものが多かったのだが、この作品は、愛国心を相対化する場面のほうを前面に押し出している。これは時代の雰囲気がそうさせたのかも知れない。当時のイギリスは、大義なきイラク戦争に参戦したことが問題となり、誤った愛国心に疑問が呈されていたのだ。

ヘンリー五世を相対化させる要素を担っているのは、バードルフ、ピストル、ニムの三人組だ。この三人組を要所に登場させることで、ヘンリー五世が訴える愛国心を相対化するのである。フォールスタッフの死と徴兵をめぐる場面をまず冒頭に登場させ、厭戦気分を打ち出す。戦場の場面では、愛国心を鼓舞するヘンリー五世と対比させる形で、戦争の無意味さのようなものを三人組が感じさせる。そこでバードルフは憎しみをかい、教会で盗みを働いた嫌疑で吊るされてしまうのである。

ヘンリー五世自体も、勇敢な面より邪悪さや弱気を感じさせる面のほうが強調される。邪悪さという面では、アルフルールの市民たちへの脅迫があげられる。その脅迫とは、イギリスに逆らえば市民を皆殺しにするというものだ。女は強姦されたあとで殺され、赤ん坊も串刺しにしてやる、とヘンリーは脅迫するのだが、そういう場面を見せられると、ヨーロッパの戦争が無意味なほど残酷だということがわかる。その残酷さをもっとも忠実に受け継いでいるのがイスラエル国家だ。イスラエル国家は、パレスチナを侵略し、抵抗するものは徹底的に粉砕する。いまのガザの状況を見ていると、イスラエルがヘンリー五世の脅迫を忠実に実行しているということがわかる。

ヘンリーの弱気は、フランス側が兵士の数でイギリスを圧倒的に上まわった事態で現れる。当時の戦争は、兵士の数によって帰趨が決まるから、数が圧倒的に多い方が勝つに決まっていると思われていた。だから、イギリス側に勝ち目がないと思えば、戦う気力もなくなる。ヘンリーは、無駄な敗北を避けて、イギリスに退却することを考える。そのヘンリーの決断を映画は強調するように描いている。

実際には、イギリス軍が局地戦に勝利し、それをきっかけに停戦が実現する。停戦の条件として、フランスの王女がヘンリーの妻として迎えられる。人質としてだ。だがヘンリーはその王女を気に入る。王女は英語も話せるし、なかなか美しいのだ。その王女が、嫁入りを前に、英語のレッスンを受ける場面がある。その場面で王女は、ハンズ(手)をアンズと、指(フィンガーズ)をファンガスと、爪(ネイル)をナイルと発音する。またガウンをコンと発音して赤面する。コンはフランス語で女陰を意味するのだ。

こんな具合にこの映画は、原作のなかから都合の良い部分を切り出して、ヘンリー五世を相対化するような仕掛けを施しているのである。






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