ヘンリー四世第一部 Hollow Crown シリーズ第二作

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2012年のイギリス映画「ヘンリー四世第一部(Henry IV, Part 1)」は、シェイクスピアの歴史劇をドラマ化したBBCの Hollow Crown シリーズ第二作。第一作の「リチャード二世」では、後にヘンリー四世となるボリングブルックが、リチャードを倒して王位につくまでの過程を描いていたが、これはその後日談。今度はヘンリー四世が、ホットスパーによって挑戦されるところを描く。この挑戦をヘンリー四世はなんとか退け、王権の維持に成功するところが「リチャード二世」との大きな違いだ。

「ヘンリー四世」は、シェイクスピアの歴史劇の中では異彩を放つ作品として知られている。シェイクスピアの歴史劇のほとんどすべては、王権をめぐる争いをテーマにしているのだが、この作品は、そういう要素のほかに、イギリス人の心の琴線に触れるような、特別な雰囲気を持っている。それを一言でいえば、祝祭的な雰囲気ということになる。それを体現しているのは道化のフォールスタッフだ。フォールスタッフが活躍するこの作品は、既成の秩序の転倒とか、猥雑な笑いといった、ルネサンス的な要素があふれている。そのフォールスタッフと組んで、王子のハリー(後のヘンリー五世)が一緒になって活躍する。その活躍ぶりは、ハリーにとっては、一人前の大人になるためのイニシエーションのような意味を持つ。ということは、この作品は、王権劇であるとともに、優れた王になるためのイニシエーションをテーマにしているということができる。

そうしたイニシエーションの要素を、この映画は前景化して強調している。映画の冒頭が、フォールスタッフとハリーの紹介から始まっていることは、その現れだ。原作ではかれらは、第一幕第二場で初めて登場するのであるが、映画では、かれらをまず登場させて、その上で、原作では冒頭にあたるヘンリー四世の嘆く場面を映し出すのである。

そうした細工を脇におけば、原作の雰囲気をほぼ忠実に再現している。前半部分はフォールスタッフとハリー王子の痛快な駆け引きが中心となり、後半は統治者としての意識に目覚めたハリーが、宿敵ホットスパーを戦場で倒して父王の信頼を得るところを描く。その場面でも、フォールスタッフのいたずらぶりが異彩を放つ。その場面は、原作ではフォールスタッフの命へのこだわりが強調されるのだが、映画は、その部分は省いて、もっぱらフォールスタッフのたくらみを映し出す。そのたくらみとは、ハリーが倒したホットスパーを、自分が殺したことにすることで、褒美にありつこうというものだ。

ホットスパーが反乱に立ち上がったのは、ヘンリー四世がかれの一族をないがしろにしたことへの怒りからだった。ホットスパーにすれば、ヘンリー四世が王権を握れたのは、かれの一族の協力によってなのに、王は自分らをないがしろにしている。そうしたホットスパーの怒りは、リチャード二世が撒いた怒りの種と同じものなのだが、ヘンリー四世は、リチャード二世とは異なって、反乱に屈することはなかった。それはハリーのような有能な息子をもったためだ、というふうに、この映画は小気味よくまとめている。





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