国家が国籍を奪う

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雑誌「世界」の最新号(2024年1月号)に、「国家が国籍を奪う 英国の経験」と題する小論(柄谷利恵子著)が掲載されている。近年のイギリスにおける国籍剥奪及び非正規に入国したものの第三国への移送問題などを論じたものだ。これを読むと、スーナク首相が進めている第三国(具体的にはルワンダ)への移送問題の本質が見えてくる。

戦後のイギリスは移民に寛容な政策をとってきた。とりわけ旧植民地からは多くの移民を受け入れてきた。それが近年移民に対して不寛容になってきた。転機は、2012年にテリーザ・メイ内相(後に首相となる)によって導入された「敵対的環境戦略」だという。これによって政府が好ましくないと思う人物の国籍をはく奪し、海外へ追い出す政策がすすめられるようになった。いま世間をにぎわせている非正規入国者のルワンダへの移送問題は、この政策の一環として起きたものだ。

移民とその子供たちから国籍をはく奪する動きについては、The Guardian が2017年に報じて以来世間の関心を呼んだ。これはウィンドラッシュ号事件と呼ばれるものである。イギリスは戦後旧植民地から多くの移民を受け入れたが、その第一号が1948年に輸送船ウィンドラッシュ号に乗ってイギリスにやってきた。かれらはイギリスの市民権を与えられ、家族をもち、子供を産んで育てた。ところが、「敵対的環境戦略」のもとで、合法的に入国したことの証明をせまられることになった。証明できればそのままイギリス国民でいられるが、証明できなければ国籍をはく奪される。実際に国籍をはく奪されたケースを、柄谷は具体的な名をあげながら紹介している。そのほか、イギリスの国籍を持っていながら、好ましからざる人物の烙印を押され、国籍をはく奪されて、第三国へ追い出されたものもいる。

これらは移民あるいはその子であるということを理由になされたものだ。イギリスは移民に対して非常に不寛容になっている。色々な原因があるのだろうが、「テロとの戦い」を旗印に、政府が移民とその子に好ましからざる人物のレッテルを張って、イギリス社会から排除する動きが進んでいるのだと思う。アメリカも近年、移民に対して非常に不寛容になっているから、これは先進国に共通した傾向なのかもしれない。

移民であることを理由にイギリス国籍をはく奪するのであれば、スーナクも移民の子である。本人は、自分は合法的に入国した移民の子であると言っているが、ウィンドラッシュ号事件の被害者もまた合法的に入国したに違いないのだ。ただそれを、書類で証明できないだけである。スーナクの親もまた、ほかのウィンドラッシュ号事件の被害者同様、1960年代にイギリスに入国し、たまたまそれを書類で証明できたにすぎないのである。





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