跋扈する植民地主義の妖怪 落日贅言

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ウクライナ戦争とガザのジェノサイドを見て、小生は人間という生き物の愚かさをあらためて思い知った。冷戦が終わった直後には、これで人類社会は世界規模の大戦争から解放され、平和な生き方ができるという幻想にとらわれたものだ。その後、アメリカによる対テロ戦争と称する小競り合いはあったものの、世界中を巻き込むような戦争は起こっておらず、人類社会は基本的には平和だったといってよかった。ところが、ウクライナ戦争とガザのジェノサイドは、そうした浮かれ気分を吹き飛ばし、人類は戦争が好きな生き物だという冷厳な事実を、痛いほど知らしめた。

ウクライナ戦争もガザのジェノサイドも、植民地主義の産物である。植民地主義というのは、力の強い国ないし民族が、力の弱い国ないし民族を、暴力によって屈服させ支配することを言う。そうしたあからさまな植民地主義は、第二次大戦後一応は清算されたと思われてきた。しかしそれは甘い思い込みだったようだ。今般の事態を見ると、ウクライナ戦争は、ウクライナを植民地支配しようとするロシアと、それを阻止して自らの利権を守ろうとする西側の対立と言ってよく、実際にはウクライナを将棋の駒に見立てたロシアと西側の戦争である。その戦争はだから新たな植民地主義の暴走といってよい。ガザのジェノサイドは、文字通り植民地主義の帰結である。イスラエル国家自体植民地主義の産物であり、それが暴力の上に建てられ、暴力を通じてしか存続できないものである限り、その暴力にあらがうパレスチナ人を皆殺しにせずにはいられないからだ。

植民地主義がいかに暴力に依存せざるを得ないかは、日本人自身植民地支配の経験があるので、よくわかっているはずだ。日本は台湾と朝鮮半島を併合し、中国の東北部(満州といった)を属国化したほか、中国本土の支配までたくらんだ。そうした日本の意思に歯向かうものは容赦なく殺した。日中戦争で日本側が殺した中国人の数は数百万人(一説には一千万人)に及ぶ。これには古典的な意味での戦死者(戦闘に伴う死者)も無論含まれているが、いわゆる三光作戦などによる民間人の死者も相当数含まれているのである。

イスラエル国家がパレスチナ人を相手にやっていることは、かつて日本がやったことと同じである。ユダヤ人のシオニストは、パレスチナの地を一方的に侵略し、そこにイスラエル国家なるものを「建国」した。その行為は、平和裏になされたのではなく、暴力によってなされた。その暴力から逃れるために大勢のパレスチナ人が難民化した。現在ヨルダン川西岸の一部とガザに暮らしているパレスチナ人は、そうした難民の子孫たちである。かれらはユダヤ人のシオニストによって殺されたり故郷を追い出された者らの子孫であるから、シオニストたちの末裔の国家であるイスラエルに憎しみを抱くのは自然である。その憎しみを止められるものは、憎しみの当事者以外にはいない。外から働きかけることはできない。

とにかく、暴力によって作られた国家は、暴力によって存続するよりほかはない。それゆえイスラエル国家は、パレスチナ人に対して日常的に暴力を振るわざるを得ない。そのことは、イスラエルのユダヤ人自身わかっていることで、良心的なユダヤ人の中には、そうした暴力に心を痛めている者もいる。「トゥー・キッズ・ア・デイ」という映画は、イスラエルのユダヤ人が制作した映画だが、それはイスラエル国家がパレスチナ人の子供を相手に日常的に暴力を振るっていることを取り上げたものだ。ユダヤ人は、パレスチナ人がユダヤ人に対して歯向かうことをやめさせるには、子供のころにユダヤ人への恐怖感を植え付けて、ユダヤ人に立ち向かうことがいかに自滅的なことか、徹底的に思い知らせようとしている。

イスラエル国家がパレスチナ人に対して過剰な暴力を行使してきたのは、パレスチナ人にイスラエル国家への恐怖心を植え付けて、抵抗する意思をそぐのが目的だ。要するに恐怖によって支配するしか道はないのである。それでもうまくいかなければ、パレスチナ人の存在そのものを許さないほかない。今回ネタニヤフらは、そこまで視野に入れているようである。さすがに二百万人のパレスチナ人を、一気に殲滅することは、国際社会の手前むつかしいかもしれないが、できればガザや西岸から追い出すことくらいはやりかねないだろう。実際ネタニヤフ政権の閣僚には、パレスチナ人をガザや西岸から追い出して、そこにユダヤ人が入植することを主張する者がいる。

シオニストの無法な行為がまかり通ってきたのは、西側の植民地主義国家が応援してきたからだ。シオニストにユダヤ人国家の建国を最初に認めたのはイギリスだし、国際連合の場でイスラエル国家の建国を主導したのもイギリスとフランスである。かれらはなぜシオニストに加担したのか。イギリスの場合には、大戦に必要な戦費をユダヤ人の金力に支えてもらったという経緯があり、フランスの場合には、中東の植民地支配を続けるうえで、シオニスト国家に利用価値があったということだろう。アメリカがイスラエル贔屓になるのは第三次中東戦争以後のことだが、それにはアメリカにおけるユダヤ人の地位向上という事態が絡んでいる。ユダヤ人は、映画産業やジャーナリズムの世界を牛耳っていたが、それに加え、金融分野など様々な分野で確実に勢力を強めている。バイデン政権の国務長官と財務長官はユダヤ人である。その政権中枢のユダヤ人閣僚が、イスラエルのために仕事をしている。ブリンケンなどは、ネタニヤフの代理人として振る舞うことに、なんらの遠慮も見せない。

アメリカのジャーナリズムの有力メディアはユダヤ人が牛耳っていることもあり、今回の事態ではイスラエルに対して避難がましい態度を控えている。ニューヨーク・タイムズなどは、ハマスの暴虐を指弾するパレスチナ出身者の文章を掲載し、イスラエルがパレスチナ人に対して行っていることはかつてのアメリカが先住民に対して行ったことと同じだから、アメリカがイスラエルを批判するのはおかしいと開き直るユダヤ人の投稿を紹介する始末である。そんなわけだから、アメリカ人の多くはイスラエルの蛮行に気が付かないふりができるのである。

だがいまや、そのアメリカを含め、一部の強国の意向だけで世界が動くわけにはいかなくなっていることも確かだ。ネタニヤフのような根っからの植民地主義者は別として、バイデンのような男もめちゃくちゃなことは通るまいということくらいはわかっているだろう。そこで1993年のオスロ合意に立ち戻ろうと呼びかけるようになったが、それにはネタニヤフが拒絶反応を示している。ネタニヤフは、未来にわたってイスラエル国家の安全が保障されないかぎり、パレスチナ人の殺戮を続けると言っている。彼には同時に、パレスチナ人にやられたことには、その百倍の仕返しをせねば気が済まぬという復讐心があるようで、その復讐心はなかなか鎮めがたいようだ,ネタニヤフの復讐心を満足させるためには、すくなくとも一人前のパレスチナ人の男は皆殺しにしなければならぬだろう。実際かれは、パレスチナ人の成人男性をすべてハマスと思い込んでいる様子である。そのハマスを殲滅するというのだから、パレスチナ人を皆殺しにすると明言しているようなものである。

イスラエル国家は、植民地主義の妖怪のようなものである。パレスチナ人の犠牲の上にしか成り立ちえない国家だ。その妖怪を西側諸国は応援し、その輪に日本も加わっている。日本もかつては植民地主義国家だったわけだから、そのよしみでイスラエルに連帯しているというわけか。イスラエルのユダヤ人は、日々パレスチナ人に暴力を振るい、いままたガザのパレスチナ人を虐殺し続けている。そのパレスチナ人の女や子供が悲鳴を上げる映像が世界中に拡散している。その悲鳴を聞いても、ユダヤ人は虐殺をやめる様子がない。ネタニヤフらシオニスト達がパレスチナ人殺しに夢中になるだけではない、イスラエルのユダヤ人のほとんどがパレスチナ人殺しに同意している。イスラエルのユダヤ人の大部分が、パレスチナ人に対して死刑執行人として振る舞っている。死刑執行人はめったに笑わないとフランスの哲学者ドゥルーズは言ったが、イスラエルのユダヤ人は違う。かれらは自分たちがパレスチナ人に加えている暴力の様子をSNS上で共有して楽しんでいるのである。こんなグロテスクなことはない。

イスラエル国家が存在するかぎり、パレスチナ人の抵抗はやまないだろうし、その抵抗に対してイスラエルは暴力を振るい続けるだろう。そんなイスラエルが存在し続けるかぎり、植民地主義も存在し続ける。それは人類社会にとっての汚点である。







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