ケネス・プラナー「ベルファスト」 北アイルランド紛争を描く

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2021年のアイルランド・イギリスの合作映画「ベルファスト(Belfast ケネス・プラナー監督)」は、北アイルランドにおけるカトリックとプロテスタントの宗教対立を描いた作品。この対立は、1969年にカトリック側がIRA(アイルランド共和国軍)」を結成してイギリスからの独立とアイルランドとの統一を求めて戦いに踏み切ったことから始まり、1970年代から80年代にかけて大規模な軍事紛争に発展した。この映画は、その対立の初期の局面を描く。カトリックに反発したベルファストのプロテスタントが、自衛段を結成してカトリックへの攻撃をするところを描くのである。

プロテスタントの家庭で暮らす一少年の視点から描く。日頃宗教のへだてなく共存していた住民が、ある日突然武力衝突する。とはいっても、この映画では、プロテスタントによるカトリックへの一方的な攻撃が描かれる。プロテスタント系住民は自警団を結成して、カトリック系住民を攻撃する。家を焼き払ったり、店を破壊したりと蛮行の限りを尽くすのである。その様子を、少年の父親は批判的に見ている。自警団の連中は、父親にも協力するよう圧力をかけるが、父親はロンドンで仕事をしていることを理由に応じない。

対立が激化し、町に軍隊が入ってくるような騒ぎに発展する。その騒ぎを見た父親は、こんなところで子供を育てるわけにはいかないと考えるようになる。できたら、オーストラリアかカナダに移住したい。政府からの補助金もある。だが、妻や息子は、住み慣れたベルファストを去ることをいやがる。そこで父親は、海外ではなくイングランド内での移住を提案する。それでも妻はいやがる。生まれた時からずっと住んでいるこの土地以外で生きていくことなど考えられないというのだ。

しかし、宗教対立がさらに激化し、町が戦場のような様相を呈するのを見て、さすがの妻子も安全なところへの移住にOKする。かくて彼らは、故郷の北アイルランドを去り、ロンドンに向けて出発する、というような内容だ。

監督のケネス・プラナーは、シェイクスピア劇の専門家として知られるが、ベルファストの出身で、1969年(9歳の年)にロンドン郊外のレディングに移住した。だから、この映画の中の少年は、彼自身と重ねあわさる。おそらく自身の体験を描いているのであろう。

その少年が、学校の同級生の少女に恋をする。大人になったら結婚したいと考えている。でも彼女はカトリックだ。そのことを父親に言うと、相手を愛してさえいれば、カトリックだろうがヒンドゥー教徒だろうが関係ないとさと言われる。この父親はリベラルな考えの持ち主なのである。






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