海を飛ぶ夢:アレハンドロ・アメナーバル

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アレハンドロ・アメナーバルの2004年の映画「海を飛ぶ夢(Mar adentro)」は、尊厳死をテーマにした作品だ。ホラー映画やサスペンス映画など娯楽性の強い映画を作ってきたアメナーバルとしては、めずらしく社会的な問題に取り組んだもの。

25歳の時に頸椎を損傷して半身不随になった男が、30年近くの病床生活に絶望して、尊厳を保ったまま死にたいと思う。しかし自分の手では死ぬことができないので、誰か他のものの手を借りなければならない。そこで尊厳死ということが問題になる。ところがスペインでは、尊厳死といえども、自殺や自殺ほう助は法律で認められていない。自殺はカトリックの教義に反するし、自殺ほう助は殺人に外ならないとされているからだ。

そんな状況なので、男はます裁判所で尊厳死を認めてもらい、それにもとづいて法律を改正し、晴れて合法的に尊厳死をしたいと願うのだが、裁判所はその訴えを棄却する。そこで男は、自分自身の手で自殺したと見せかけるトリックを使って、尊厳死をしようと決意する。その決意は実現し、男は願ったとおりの尊厳死を遂げるというのがあらまかなストーリーだ。

実在の人物の手記をもとにした映画だという。手記のことは知らないが、映画のなかでは、男に協力する人々が出て来る。一番重要なのは、尊厳死の法制化に努める団体とか、そこのメンバーで男の世話をするようになった女性弁護士だ。この女性弁護士は、男の体験を本にして出版し、世論に尊厳死の実現を訴えたりするのだが、自分自身が難病にかかってしまう。しかも脳血管の難病のため若年性の痴呆になってしまう、といった具合で、最後まで男の面倒を見ることができない。

一方、男のことをテレビで見て興味を覚えた女性が、なにかと男の世話をするようになる。その女性は男を深く愛するようになり、男の尊厳死の願いをかなえてやりたいと思う。男は彼女の助力を得て、尊厳死することができるのだ。

男は父親及び兄夫婦と暮らしているのだが、兄の息子、つまり甥は自分の生ませた子だということを、映画のラスト近くで告白する。それがいかにも付焼刃的に見えるのだが、おそらくは原作に忠実なためだろう。映画としては、あらずもがなの設定といってよい。

主演の男を演じたハビエル・バルデムは、この時35歳だったが、初老の男の雰囲気を出している。禿げ頭に見せるなど、巧妙なメーキャップのせいだろう。本人はずっと若い印象の人物だという。

なお、似たようなテーマを扱った映画として、日本の周防正行の作った「終の信託」がある。周防の映画は、尊厳死を望む患者の希望を叶えてやった女性弁護士が、殺人罪で裁かれるという、ある意味陰鬱な作品だったが、この「海を飛ぶ夢」には、そういう陰鬱さはない。周防の映画はアメナーバルより十年もあとのものだが、その時点でも、日本では尊厳死が、暗い運命をもたらすようなタブーになっていたわけだ。







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