ナイト・ウォッチ:ティムール・ベクマンベトフ

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2004年のロシア映画「ナイト・ウォッチ(Ночной дозор)」は、人類の異種をテーマにした空想映画である。人類の異種というとわかりにくいが、たとえば哺乳類にはその異種として有袋類があるように、人類にも異種があるということらしい。哺乳類と有袋類の種間差別は形態学的なものだが、人類とその異種との差別は能力的なものということになっている。人類の中でたまたま異様な能力を持ったものが、異種として分類されるというわけである。

異種には二通りある。光の種族と闇の種族である。この二つの種族は、大昔には戦いあっていたが、ある時点で停戦協定を結び、それ以来平和に共存してきた。しかし停戦協定の順守と共存ルールの徹底を期すために、監視システムを儲けて、互いに監視しあっている。光の種族のそれはナイト・ウォッチとよばれ、闇の種族のそれはデイ・ウォッチと呼ばれる。映画はその二つのシステムの併存と衝突を描いているのである。

映画は一人の少年を中心に展開する。その少年の生物学的父親はナイト・ウォッチに属している。ところがその少年は、自らの意志でデイ・ウォッチに所属することを選ぶ。その理由は、自分を殺そうとした父親から闇の種族の酋長が助けてくれたからということになっている。何故父親が自分の息子を殺そうと思ったのか。合理的な理由はない。その子どもを妊娠していた妻を殺そうと思っただけだ。それが反射的に子供の殺害に発展したわけである。

こういうわけで、空想映画とはいえ、かなり荒唐無稽な筋書きである。第一、人類の異種という発想が幼稚すぎる。そんなものを発想して喜んでいるのはロシア人くらいのものと思われるのだ。ロシア人は長い間タタール人に支配され、タタール人を心底怖れていたので、タタール人のように強い人間たちは、人類の異種に違いないと思い込んだフシがある。

それはともあれ、映画は少年の父親によって殺された男の恋人が呪いをかけたことで、事態が急進展するということになっており、その呪いが解けるのと同時に映画も終わるというふうになっている。これもロシア人ならではの幼稚な設定だが、いまはそれは言わないことにしよう。なお、ナイト・ウォッチは英語的な表現で、ロシア語原題では「ノチノーイ・ダゾール」という。

もう一つ気が付いたこと。映画ではモスクワの市街が出て来るが、そこには信号とか横断歩道が全く見えない。実際モスクワの町はその通りなのだ。人々は(通りの向こう側の)目の前にあるところに行きたくても、途方もない距離を迂回しなくてはならないのである。それもまた、いかにもロシア的である。






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