ナサリン:ルイス・ブニュエルの映画

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ルイス・ブニュエルの1959年の映画「ナサリン(Nazarin)」は、ブニュエルが大戦後メキシコで作った一連の低予算映画の一つで、「忘れられた人々」と並んで、メキシコ時代の傑作とされる作品である。放浪のカトリック神父と、かれの周りに引き付けられる様々な人物を描きながら、メキシコ人独自の世界観を表現した。

ナサリオと呼ばれるカトリックの一神父が主人公である。かれは自分の教会をもたず、アパートで独り暮らしをしながら人々の悩みを聞いているのだが、その中には娼婦とか恋に破れた女とかがいる。そのうち、娼婦が引き起こした放火事件がきっかけで神父は放浪の旅に出る。その旅に二人の女がついてくる。彼女らは、この神父が死にかかっていた子どもを生き返らせたことを奇跡とみなし、かれを聖人と思い込んでいるのである。

そんな女たちと放浪を続けながら、さまざまな試練を潜り抜けていくというのが、主な内容である。劇的な筋書きはない。ナサリオ神父がさまざまな人々と多彩なかかわりをもつ様子が淡々と描かれる。神父は、人間的な感情も持っていて、侮辱されたら怒るし、自分の無力を自嘲したりもするが、究極的には神に自分をゆだねたという諦念から、何事も受け入れる。その挙句、犯罪者扱いされて、メキシコの荒野を官憲によって引きまわされるのである。

メキシコ映画であるから、スペイン系の人間のほかインディオやメスティーソも登場する。インディオの描き方は、そう差別的ではない。むしろスペイン系の人間のほうが、女を含めて、粗野で迷信深く、愚かな人間として描かれている。その愚かな人間たちを相手に、ナサリオ神父は神の教えを説くのである。しかし彼の教えがメキシコ人たちにどれほど届いているか。かなり心もとないというのが率直な印象である。

タイトルの「ナサリン」は、神父の名「ナサリオ」と何らかの関係があると憶測されるが、詳しくはわからない。





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