フレッド・ジンネマン「暴力行為」:密告者への復讐

| コメント(0)
zinnemann02.jpg

フレッド・ジンネマンの1949年の映画「暴力行為(Act of violence)」は、第二次大戦中の米軍兵士の悲劇をテーマにした作品。ナチス・ドイツの捕虜になった米兵が、脱出する計画を実行しようとしたところ、その計画を米兵の一人がナチの将校に密告したことで、首謀者はじめ計画に加わったものが、むごたらしいやり方で殺される。一人生き残った兵士が、密告者に復讐するというような内容の作品だ。戦後間もないということもあって、戦争をめぐるこうしたエピソードは、まだ人々の関心を惹く時代だった。

映画そのものは、密告者を追求する男と、追われる男との心理戦のようなものを描いている。最後は密告者が死ぬことで正義が実現されるというような体裁をとるのだが、それにしても、気が滅入るような話である。密告者が死ぬ直接の原因となるのは、その密告者がプロの殺し屋を雇ってしまうことだ。その殺し屋が、追跡者を殺そうとするのを止めようとして、密告者は自分が代わって殺されるのである。こういう設定は、ちょっと安易すぎると思う。

映画は、謎の男が密告者の妻のところに現れるところから始まる。なにも知らない妻は、夫の居場所を謎の男に教えたり、その男の正体がわかると警察の保護を求めようとしたり、妻として当然のことをする。また、謎の男の恋人も、かれを殺人者にすることを防ごうとして努力したりする。そうした努力が一切むくわれず、密告者が酩酊して判断能力の衰えたところを、プロの殺し屋に追跡者の殺害を依頼する形になってしまう。酔いからさめた密告者は、自分の行為を悔い、自分の命をかけて殺害を妨害しようとし、自分が死んでしまうのである。その辺の展開がやや不自然なので、安易すぎる設定だと評した次第である。

白黒の映像が美しい。キャロル・リードの映像美を思わせる。リードが「落ちた偶像」で白黒の映像美を堪能させたのは1948年のことだから、ジンネマンは当然それを見ていたはずであり、影響された可能性は大いにある。





コメントする

アーカイブ