キャロル・リード「落ちた偶像」 少年の勘違い

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キャロル・リードの1948年の映画「落ちた偶像(The Fallen Idol)」は、グレアム・グリーンの短編小説「地下室」を原作にして、リードが大胆に脚色した作品。テーマは少年の勘違いである。その勘違いのために、自分が護ろうとしている人をかえって窮地にさらすといったような内容である。

舞台は、ロンドンにあるさる国の大使館。その大使館の書記官と大使の息子という十歳ほどの少年が主人公である。書記官は夫婦仲が悪く、別に恋人を作っている。それに嫉妬した妻との間でもみ合いとなり、妻は館内で誤って転落死する。それを少年は、書記官の犯罪だと思うのだが、この書記官は自分にとって大切な友達なので、なんとかして護ってやりたいと思うのだ。

そこで少年なりにさまざまな工夫をするが、それが事態をますます複雑にする。結局ロンドン警視庁の捜査官が、事故死であることを確信し、書記官の容疑ははれる。それでもなお少年は、書記官を擁護しようとして、つじつまのあわないことを話し続けるのである。

映画の見どころは、少年の心理状態をイメージ化したところだろう。少年の心の中の模様のようなものが、白黒画面の劇的なコントラストによって表現される。とりわけ、事故を殺人と勘違いした少年が、深夜のロンドンの街を徘徊するところなどは、実に迫力ある映像処理になっている。そういう場面を見せられると、キャロル・リードは映像美にこだわるタイプの映画作家だと感じさせられる。

書記官の恋人を演じたミシェル・モルガンは、戦前からフランス映画を彩った大女優であり、ジャン・ギャバンと共演した作品に印象深いものがある。そのモルガンが、この映画のなかでは、知的な大使館員として出演している。





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