岡本喜八「ジャズ大名」 幕末にジャズをたのしむ大名

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岡本喜八の1986年の映画「ジャズ大名」は、日本に漂流してきた黒人たちからジャズ音楽を叩きこまれた大名が、家臣ともどもジャズセッションを楽しむといった荒唐無稽な設定の映画で、例によって人を食った作りかたになっている。史実とか時代考証とかはいっさい無視し、とにかくジャズの雰囲気を楽しもうではないかと開き直った映画である。これはおそらく、筒井康隆の原作自体がそういう雰囲気なのであろう。

舞台は幕末のとある藩。駿河湾に面している。そこに三人の黒人が漂着する。藩の官僚機構は、幕府に気を配ってなんとか始末しようとするが、藩主(古谷一行)がかれらに強い関心を示す。自身ひちりきを吹いたりする楽器好きで、黒人らの楽器の演奏が気に入り、それを自分もならって一緒にジャズを演奏する、というような内容である。

黒人らの漂着にさきがけ、かれらのアメリカでの奴隷としての暮らしぶりとか、アフリカをめざして航海たものの、途中で難破して漂流し、駿河の浜に流れ着いた経緯が紹介される。この部分は原作にもあるそうだ。なくても別に不都合は生じないと思う。

時は幕末で、戊辰戦争の最中である。駿河といえば徳川方の領域で、藩としては徳川に味方するのが筋だと思うが、ここの藩主は中立を保ち、どちらにも肩入れしない。東海道筋に城がたっており、そこが東西の往来の場となっている。そこで藩主は、官軍・幕府軍のいずれもがこの城を抜けることを許すばかりか、ええじゃないかの大集団や法華宗の坊主の集団が抜けるのも見過ごす。ええじゃないかは別として、ここでなぜ法華宗が太鼓をたたきながら出てくるのか、よくわからぬところがある。

ともあれ、映画の見どころは、藩主はじめ藩のすべての人間たちが、黒人たちとともにジャズセッションを楽しむ場面。時代考証は無視しているので、ホルンとかチューバを吹いているのもいるし(黒人の持参した楽器はドラム、トロンボーン、トランペット、クラリネットである)、琴や三味線を使っているのもいる。サメの頭蓋骨を太鼓代わりに叩くものもいる、といった具合だ。藩主自身はクラリネットが気に入り、それをひちりきを吹く感覚で吹きまくっている。

どうやら、音楽を通じて平和を楽しもうという趣旨のようである。






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