雑誌「世界」の最新号(2024年3月号)が「さよなら自民党」と題する特集を組んでいる。今大騒ぎになっている自民党各派閥の裏金問題が、自民党にとってどんな問題を投げかけているのかを批判的に検証するような内容である。最も迫力を感じたのは、佐々木毅と山口二郎の対談。「90年代政治改革とは何だったのか」と題するこの対談のなかで、佐々木は、30年前にも同じような不祥事(リクルート事件)が起き、そのために政治改革をやったはずなのに、その改革の理念がちっとも実現せずに、またぞろ同じような不祥事が起きたと言って、自分たちの対談が失われた三十年を地で行くようなものになるんじゃないかと「恐れている」と言う。
司会役の三浦俊章は、三十年前も金の問題でスキャンダルになったのが、その金の問題がいつの間にか選挙制度改革にすり替わってしまったと言って、今回も金の問題は棚上げされ、別の問題にすり替わっていくのではないかと疑問を呈している。山口は山口で、小泉や安倍などの強い政権ができたという意味では、政治改革(中心は選挙制度改革)は成果を上げたと言えるが、その一方で安倍は、選挙に勝ちさえすればなんでもできるという態度をとった、と批判的な見方もしている。
安倍がやったことについて鋭い批判をしているのは上野千鶴子だ。彼女は「安倍政治の罪と罰」と題して、安倍がやったことは日本の国力を弱めることで、しかもその強引なやり方を通じて国民の政治不信を招いたと指摘する。今の日本はワクチン一つ作れず、男性の平均賃金は韓国・ベトナムに抜かれ、それどころかGDPもドイツに抜かれた。そんなわけで日本は、二流国になり下がったといってその原因を作った安倍を厳しく指弾する。その安倍政権を維持したという罪で、「その罰を今日受けているのはわれわれ国民である」と言うのである。上野によれば、国民にも相応の罪があるということのようだ。
「派閥政治の核心」と題する申琪榮の文章は、今回の問題について安倍にだけ責任を負わせるのではなく、日本の政治における世襲の問題に焦点を当てる。世襲がはびこるのは、政治家になる道筋が細いからである。世襲議員は自前の政治資源を用いて勝負する。その際に、裏金は威力を発揮する。世襲制度がなくならない限り、同じようなことが繰り返されるだろうとして、政治改革を本物にするには、世襲政治からの脱却が必要だと指摘する。
三浦真理は「金権体質をしつこく、問い続けよう」と題する文章を寄せて、政治改革を進めるためには、国民一人一人の粘り強い抵抗が必要だと言う。たしかにそうだ。国民の声が大きく響き渡れば、政治家もそれを無視することはできず、いささかでも改革に熱心な様子を見せる必要性を感じるであろう。甘い味方かもしれぬが。
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