イギリス映画「アメイジング・グレイス」 奴隷貿易の廃止にとりくんだ政治家

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2006年のイギリス映画「アメイジング・グレイス(Amazing Grace マイケル・アプテッド監督)」は、イギリスの奴隷貿易廃止に取り組んだ政治家ウィリアム・ウィルバーフォースの奮闘ぶりを描いた作品。それに、讃美歌「アメイジング・グレイス」を絡ませている。この讃美歌は、ロンドンの教会の牧師ジョン・ニュートンが作詞したものと言われるが、歌詞の内容は神をたたえるものであり、奴隷解放とは関係はない。映画はそのニュートンを登場させて、あたかもこの曲が奴隷解放を呼びかけたもののように描いている。

ウィルバーフォースが、時の宰相ピットと組んで奴隷貿易廃止に取り組んだことは歴史的事実だ。イギリスは、奴隷貿易の最大の受益者で、売買した奴隷の数は300万に及んだ。これに、移送中船中で死んだ黒人がどれくらい含まれているかは、はっきりしないらしい。ともあれ、奴隷貿易から得られる利益が、イギリスの富の大きな部分をしめていた。

その魅力ある奴隷売買を、イギリスがなぜ廃止する気になったか、動機は曖昧だ。人道的な動機が働いた、という説もあるが、眉唾ものだろう。この映画に出てくるウィルバーフォースにしても、かれが奴隷貿易廃止のために取り組んだ動機は曖昧なままだ。かれは当初神職を目指していたから、あるいはキリスト教的な考えに動かされたのかもしれない。

奴隷貿易を始めたイギリスが、その廃止を決めて、一応人道に熱い国というイメージを得たのは、マッチポンプを思わせるようで、嫌味なところもある。人間は、奴隷として生まれてはいないわけで、それを奴隷にするという発想自体が、非人道的である。それを廃止したからと言って、非人道的な行為が帳消しになるわけでもあるまい。

イギリス人の欺瞞的な性格が、露骨にあらわれた映画である。なお、アメリカが奴隷制を廃止するのは、内戦(いわゆる南北戦争)後のことである。これは、黒人への人道的な配慮というより、リンカーンが、白人までが奴隷となることを恐れたからだと言われる。






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