アメリカ映画「スポットライト 世紀のスクープ」:カトリックの性的虐待を追求

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2015年のアメリカ映画「スポットライト(Spotlight トム・マッカーシー監督)」は、カトリック教会における聖職者の性的虐待問題をテーマにした作品。アメリカでは、カトリック教会における性的虐待がしばしば問題となっていたが、大々的に取り上げられることはなかった。2002年に、ボストンの新聞ボストン・グローブが、綿密な調査にもとづいて、この問題を報道すると、全米的な規模で事態解明と責任追及が行われ、バチカンの教皇が謝罪に追い込まれたのは周知のことだ。この映画は、ボストン・グローブの専門部隊「スポットライト」による問題追及の過程を描く。

ニューヨーク・タイムズから横転してきたユダヤ人編集長が、問題解明の方針を立てる。この時期ボストン・グローブはニューヨーク・タイムズの子会社になっていたので、そんな人事があったわけだ。ニューヨー・タイムズにはユダヤ人記者が多い。その中からボストンに派遣されたのであろう。ボストンでユダヤ人が編集長になるのは、これが初めてだとアナウンスされる。

ボストンでは、かねてからカトリックの聖職者による児童への性的虐待がたびたび問題となっていた。だが、大きな事態に発展することはなく、教会の圧力もあって、泣き寝入りに終わるのが普通だった。それではまずいというので、問題を徹底的に解明して、教会に責任を取らせようというのが、編集長の意図であった。

スポットライトでは、スタッフ全員が一丸となって、調査解明に乗り出す。被害者や弁護士への聞き込みが続けられ、教会内部の人事についても古い資料を探し出して解明する。その結果、ボストンでは90人もの神父が性的虐待にかかわり、被害者の数は数百人にのぼるということがわかった。あとは、証拠固めをきちんとするだけだ。そこに9,11が起きる。新聞のエネルギーは9.11に集中され、カトリック問題の追及は一時棚上げされる。

結局、9,11問題がひと段落するのを待って、2002年1月からこの問題についての大々的なキャンペーンを始める。そのキャンペーンが、世界的な規模でのカトリックの性的虐待追求の機運を高めたわけである。

この問題の解明が遅れたのには、カトリック教会による圧力のほか、教会の名誉を守ろうとする信者の意向も働いていた。少しの悪より多くの善を優先すべきだという理屈からである。

新聞記者によるスキャンダル追及をテーマにした作品としては、ほかに「大統領の陰謀」(1976)がある。そちらはワシントン・ポストの記者たちがウォーターゲート事件を追求する過程を描いていた。






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