それでも夜は明ける:奴隷になった自由黒人

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2013年のアメリカ映画「それでも夜は明ける(12 Years a Slave スティーヴ・マックィーン)」は、アメリカの奴隷問題をテーマにした作品。19世紀前半のアメリカが舞台。その頃のアメリカ合衆国は奴隷制度が合法だったのだが、北部では自由黒人という範疇の人たちが存在していて、自由人として暮らせていた。自由黒人証明書というものが発行され、その証明書がかれらの安全を保障していた。ところが、悪い白人の手にかかって、南部に奴隷として売られ、ひどい目にあう黒人が多くいたらしい。この映画は、自由黒人でありながら、白人のならず者に騙され、南部の奴隷所有者に売られた黒人を描いている。

映画の主人公は、ニューヨークで暮らしていた黒人ソロモン・ノーサップ。彼には妻と二人の子があり、それなりに満足な暮らしをしていた。ところが、悪い白人に騙され、南部の奴隷市場に拉致されて、そこで白人奴隷所有者に売り飛ばされてしまう。一緒に浦らえた奴隷の中に、二人の子をもった女がいたが、彼女は子どもらと引き離され、自分だけソロモンと一緒に買われるのである。この映画は、ソロモン・ノーサップの回想記を原作としているそうで、すべて現実に起ったことだそうだ。

映画は、白人たちによって虐待され、搾取される黒人たちの苦悩を描く。この映画の中に出てくる白人たちは、どれもこれも性悪のやつらで、黒人を虐待することに嗜虐的な快楽を感じるような輩である。黒人たちは、そうした白人たちの理不尽な暴力にただひたすら耐える。ソロモン自身が、主人の命令によって、親しい黒人女を鞭でぶちのめす有様である。白人は自分の手をよごさずとも、黒人にかわってやらせることで、満足を得ることができるのである。

全編がそうした虐待のシーンばかりといってよく(反抗的な黒人を白人らが木に吊るすシーンもある)、見ていて胸糞が悪くなるほどである。しかも黒人たちのそうした悲惨な境遇には、何らの希望もない。かれらは白人による虐待を永遠に忍ばねばならないというあきらめに陥るほかはないのだ。その諦めがかれらを卑屈にし、その卑屈さが白人らをいっそうつけあがらせるのである。

ソロモンは奇跡的に自由黒人の身分を取り戻すのだが、生まれながらの奴隷黒人には、そうした希望はない。かれらは、その先も奴隷であり続けるほかはない。リンカーンによって奴隷制度は廃止されるが、しかし白人による黒人への差別・迫害はその後も続く。21世紀に入いってさえ、白人警察官による黒人殺害が頻発するほど、アメリカは黒人にとっては、危険な国であり続けている。

なおこの映画を監督したスティーヴ・マックィーンは、西部劇でおなじみのあの俳優ではなく、黒人映画監督だそうだ。






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