アベルとカイン:ルドンの宗教画

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ルドンは、1880年代の半ばごろに、本格的な油彩画の制作に励むようになった。石版画の制作もやめたわけではない。1890年代半ばごろまで石版画の制作を続けている。だが主力は次第に油彩画のほうに注がれるようになった。「アベルとカイン」と題されたこの作品は、かれの本格的な油彩画の初期の傑作である。

旧約聖書の逸話から画題をえたもの。アダムとイブの子であるアベルとカインの兄弟をめぐる話だ。この兄弟のうち、弟のアベルの供物だけを神が受け入れるのに嫉妬したカインは、アベルを殺してしまう。その罰として神は、永遠に放浪の暮らしを送らせるようにさせた、というような内容である。

この絵の構図は、カインが棍棒を振り上げて、まさにアベルを叩き殺そうとする場面。カインは衣をまとっており、アベルは裸体である。おそらくアベルの無垢を表現しているのであろう。彼らの背後の煙は、アベルがささげた供物が焼かれたことを意味している。

この構図は、ジェロームのアトリエで修行していた時代にさかのぼるということだ。ジェロームは当時の主流であった、歴史や神話に取材した作品を得意としていた。

(1886年 カンヴァスに油彩 81×54㎝ 岐阜県美術館)





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