2007年のルーマニア映画「4ヶ月、3週と2日」(クリスティアン・ムンジウ監督)は、女子大生の堕胎をテーマにした作品。ルーマニアでは堕胎は違法になっており、望まぬ妊娠をした女性は、出産するかあるいは違法な堕胎処置をするか、どちらかを選ばねばならない。国内で正式な医療処置を受けられる可能性はないので、闇の堕胎師しに頼ることになる。闇の堕胎師にはいかがわしい人間もいる。この映画は、そうしたいかがわしい堕胎師にめぐりあったために、ひどい心の傷を負う羽目になった女子大生たちを描く。
主人公は、大学の寄宿寮のルームメイト、オティリアとガビツァ。ガビツァが妊娠していて、彼女の堕胎をオティリアが手伝う。大学の友人たちから安く堕胎処置をしてくれる人を紹介してもらったのだ。ところがその堕胎師が曲者だったというわけである。とにかく、彼女らはホテルに部屋をとり、そこに堕胎師に来てもらって処置をうけることになる。ところが報酬のことで折り合いがつかない。妊婦はすでに妊娠五か月近くになっており(正確には4ヶ月、3週と2日)、もし発覚すると重罪を課されるおそれがあるといって、多額の金を要求するのだ。すぐには払えないというと、身体で払えという。しかたなくオティリアが相手をつとめ、処置をしてくれることになった。
結局処置は成功して、胎児は体外に排泄される。その死骸をオティリアが外部に持ち出し、アパートの上層階にあるダスト・シュートに投げ入れる。堕胎師の指示通りにしたのだ。埋めれば犬に掘り返されるし、ふつうのゴミ置き場ではすぐに発見されてしまうから、というのである。死骸の始末をつけたオティリアは、ホテルにもどってガビツァと食事の席につく。オティリアはガビツァのためにさんざん煮え湯を飲まされたのだが、どういうわけか、あまりそのことにこだわらない。一方、付き合っている恋人には厳しい態度をとる。もし自分が妊娠したら、この恋人が自分のために動いてくれるかどうか、はなはだ心もとないと思うからだ。
たったこれだけのことが描かれているのだが、なかなか緊迫感に富んだ仕上がりになっている。とくに、堕胎が違法であるために、堕胎しようとする女性の払わねばならぬ犠牲が理不尽さを感じさせる。いまやキリスト教の影響が高まっている社会(アメリカの一部諸州など)では、堕胎に対する社会的不寛容が強まっている。そういう時代だからこそこの映画は、人に考えさせるものを持っているのであろう。
なお、違法な堕胎をテーマにした映画としては、2004年のイギリス映画「ヴェラ・ドレイク」がある。そちらは堕胎する人を正面から描いているが、こちらは堕胎をうける当事者に焦点をあてているわけだ。
コメントする