安倍政治の決算

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雑誌「世界」の最新号(2023年8月号)が、「安倍政治の決算」と題する特集を組んで、十数本の論文を集中掲載している。それを通読しての印象は、論者たちが安倍政治を「決算」しきれていないということだった。安倍政治の残した日本の情ない状態を前に、それを嘆く声は聞こえても、安倍政治の遺産を清算して、望ましい日本の未来を展望しようとする意欲を感じさせるものはなかった。それはおそらく、安倍政治がこの国をめちゃくちゃにした振舞いを見て、そのすさまじさにただただたじろくだけといった、いささかみじめな状態に、論者たちがおかれた状況を感じさせるテイのものだ。

論者たちが安倍政治を決算できないのには、それなりの理由がありそうだ。安倍政治には、この国のあり方にとって破壊的な要素が満ち溢れており、それについて、論者たちによる断片的な言及はあるものの、安倍政治の問題点をトータルに総括し、それからの脱却と日本の望ましい未来についてのイメージを、論者たちが提示しているとはとても思えない。

だいたい、安倍政治の決算を言う前に、安倍政治をそっくりその引き継いでいる岸田政権の体質を徹底的に検証し、その時代遅れな性格を指摘した上で、それにかわる選択肢を示すのが、かれらに望まれる姿勢ではないか。そうした姿勢が、残念なことに感じられない。

要するにこれらの論者たちは、いまだに安倍政治の魔力に取りつかれており、安倍本人がいなくなったあとも、そこから覚醒することができないでいる、ということではないか。

多少辛辣な言い方になったが、安倍政治の持つ強力な魔力のようなものを考えれば、なまじな姿勢では、それから目覚めることはできないのではないか。とはいうものの、それはないものねだりかもしれない。いわゆる安倍政治の問題とは、安倍個人の問題というよりも、日本人全体にとっての問題である。その日本人全体を「決算」するのは、かなりむつかしいことだろうからだ。





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