ホガースの風俗版画「娼婦の遍歴」シリーズ

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「娼婦の遍歴(A Harlot's Progress)」は、ホガースにとって最初の風俗版画シリーズである。かれは当初、この版画シリーズのテーマを油彩画で制作したのだが、それを版画にして売り出すことを思いついた。予約販売という方法で募集したところ、1200件の注文が入った。販売するや大変な反響があり、海賊版が出回ったほどだった。これに気をよくしたホガースは、同じようなテーマの版画シリーズ「放蕩息子の遍歴」などを続けて制作している。

このシリーズのテーマは、若い女性が身を崩して娼婦になる過程を描くことであり、そのような境遇に陥らぬよう、当の若い女性たちとその保護者たちに教訓と警告を発することにあった。ホガースにはそういう道義者めいたところがあったのである。

シリーズの女主人公モルには、実在したモデルがあるという。追いはぎの罪で絞首刑にされたハッカバウトの妹で、彼女自身風俗紊乱の罪で投獄された。風俗紊乱とは、売春を通じて社会秩序を乱したということであろう。

シリーズの第一作目は、「モル・ハッカバウト、ロンドンのベル・インに着く(
Moll Hackabout arrives in London at the Bell Inn, Cheapside)」と題する。若い女性モルが、仕事を求めてロンドンにやってくると、女衒が待ち構えていて彼女を誘惑する。娼婦として売り飛ばそうとするつもりなのである。

画面中央にモルと女衒が描かれている。モルは裁縫道具を抱えていて、裁縫の仕事を求めていることが暗示される。一方女衒のほうは、モルの顔をいじくりまわしたりして、娼婦として高く売れるかどうか試している。女衒の背後には売春宿の亭主らしい男がいて、モルに興味を示している。

馬に乗ったり馬車で通り過ぎる人々は、モルの運命に無関心である。背景に、バルコニーから身を乗り出した女が描かれているが、これはモルの身の行く末を案じているのかもしれない。

この絵からわかることは、18世紀のロンドンでは、若い女性が娼婦として売り飛ばされることが珍しくなかったということであろう。






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