ミロス・フォアマン「マン・オン・ザ・ムーン」 アンディ・カウフマンの半生

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ミロス・フォアマンの1999年の映画「マン・オン・ザ・ムーン(Man on the Moon)」は、1970年代後半から80年代前半にかけてテレビなどで活躍したコメディアン、アンディ・カウフマンの半生を描いた作品。カウフマンは日本では全くといってよいほど知られていないが、アメリカでは結構人気があったそうだ。ギャグとドタバタを組み合わせたアメリカ人好みの演技がうけたということらしい。だが、本人はそれを、大衆におもねる低俗趣味だといって、自嘲していたという。この映画は、そうしたカウフマンのやや複雑な心境を表現するものとなっており、ただのお笑い映画ではない。

カウフマンの主な持ちネタは、架空の人物との一人二役を演じるとか、フィッツジェラッルドの小説「グレート・ギャツビー」を朗読するとか、女性蔑視発言を繰り返すとか、無性別級プロレスと称して女性を相手にプロレスをするといったものである。とくにプロレスはお家芸で、相手はかれの女性蔑視発言に怒った女性たちである。プロレスを笑いのタネにされたプロレスラーから挑戦され、ボコボコにされた上に首を骨折したこともある。映画はそうしたかれの腕自慢ぶりを、おもしろおかしく映し出す。

フォアマンらしく、テンポが速くしかも華麗な雰囲気を感じさせる映画づくりになっている。コメディアンという役柄自体に演劇的な要素があるうえに、プロレスとか女性蔑視とか派手なイシューを前面に押し出しているので、かなり賑やかな雰囲気の作品に仕上がっている。

この映画を見ていると、フォアマンがカウフマンという人物像を通じて、アメリカ人の馬鹿馬鹿しいところを嘲笑しているというふうに伝わってくる。アメリカ人は、カウフマンに自分自身の俗物根性を発見して、それを不快に感じるのではなく、喜んでいる。どうせコメディをみるなら、腹を立てながらみるより、腹をよじりながら見ている方が気が楽だというわけであろう。

タイトルの「マン・オン・ザ・ムーン」は、カウフマンをネタにつかった歌のタイトルということらしい。この映画とは直接関係はない。この映画の中のカウフマンは、月に着陸するわけではなく、頭からリングの床に叩きつけられて、首の骨をへし折られるのである。





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