ウィリアム・ホガースの版画シリーズ「勤勉と怠惰」

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ウィリアム・ホガースは、1647年に「勤勉と怠惰(Industry and Idleness)」と題する版画のシリーズを出版した。「娼婦と遍歴」(1631)の延長上にある教訓ものである。「娼婦と遍歴」では、世の中を甘く見たために身を落とし、若くして死んだ女性がテーマだったが、このシリーズでは、勤勉な人間と怠惰な人間の生き方を対比させて、怠惰は身を滅ぼし、勤勉は成功に導くということを、教訓として説教している。いかにも説教好きなホガースらしい作品と言える。ホガースは、これをより多くの人に見てほしいと思い、比較的安い値段で売り出した。評判はよかったようである。

シリーズは十二点の版画からなる。「娼婦と遍歴」とは異なり、油彩の原画はない。版画の原版は、今日大英博物館が所蔵している。

シリーズ第一点目は、「織機につく徒弟たち(The Fellow 'Prentices at their Looms)と題する。二人の徒弟の仕事ぶりを描いている。一人はフランシス・グッドチャイルドという名の勤勉な徒弟、もう一人はトム・アイドルという名の怠惰な徒弟。この二人は次第に対照的な生き方をしていくのであるが、一点目のこの作品で、かれらの対照的な性格がわかりやすく表現されている。

ふたりは、親方の監視のもとに織機を動かす仕事についている。画面右端にいる男が親方で、その近くで織機を動かしているのがフランシス、左端にいるのがトムである。フランシスの仕事ぶりはわかりやすいが、トムのほうは仕事を放り出して、壁に寄りかかって居眠りをしている。そんなトムを親方は厳しい視線で見ている。

トムの織機には猫がじゃれかかっているが、これは織機が全く動いていないということを示している。一方、フランシスのほうの織機は、忙しく動いている。その動きの有無が、勤勉と怠惰の差異を象徴しているのである。






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