
ウィリアム・ホガースの版画シリーズ「選挙のユーモア(Humours of an Election)」は、四枚組のシリーズで、当初は油彩画で書かれたものを版画に作りなおしたものだ。その際に、画面の構成を左右逆にしている。モチーフは、1764年に催された衆議院選挙で、オックスフォード選挙区の様子を描いている。当時の選挙は制限選挙で、しかも記名式とあって、賄賂や買収が横行していた。そんな不正選挙の様子を、面白おかしく描いたものである。風刺版画家ホガースの集大成的な作品との評価が高い。
シリーズ第一作は「選挙エンターテイメント(An Election Entertainment)」と題する。エンターテイメントには余興とか気晴らしといった意味のほかに、宴会という意味もあるらしい。この絵は、選挙権者に対して行われたエンターメントの様子を描いたものである。
一応、ホイッグ党の陣営がモデルである。候補者が支持者を招待して、エンタテイメントを提供している。当時のイギリスの選挙システムは、一つの選挙区から二人の当選者を出すというものだった。したがって、この作品には二人の候補者が出てくる。画面左手、四角いテーブルの左端にいる二人の人物だ。一人は老婆から接吻されており、もう一人は、二人の男に左右から抱きかかえられている。
右側の丸いテーブルの端には、市長がいかめしい姿で、エンターテイメントの様子を観察している。テーブルの手前にいる人たちは、下働きのものか。座りこんでいる男は傷痍軍人らしい。画面の奥には巨大な窓があり、その外側にはトーリーを支持する連中が詰め寄せている。
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