イギリス映画「ハイドリヒを撃て!ナチの野獣暗殺作戦」:チェコの対独レジスタンス

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2016年のイギリス映画「ハイドリヒを撃て!ナチの野獣暗殺作戦(Anthropoid ショーン・エリス監督)」は、ドイツ支配下のチェコにおける対独レジスタンス運動の一齣を描いた作品。実話に基づいた作品である。チェコのロンドン亡命政府が、チェコのドイツ人総督ラインハルト・ハイドリヒの暗殺を計画した。その計画はAnthropoid(類人猿)作戦と呼ばれた。この映画はその作戦の現地における進行ぶりを微細に描いたものである。

ハイドリヒは、ヒムラーに続く実力者で、ユダヤ人撲滅計画にもかかわったといわれ、その残忍性のゆえに「金髪の獣」と呼ばれていた。ニーチェが好んで使った言葉で、本来はドイツ人の優秀さを形容した言葉だったが、ドイツ人以外にとってはドイツ人の残虐性を象徴するような言葉だった。じっさいドイツ人は、その言葉にたがわぬ残虐性を発揮したということが、この映画からは伝わってくるのである。

映画は、ロンドンの亡命政府の命令でハイドリヒ暗殺計画の任務を負った二人の男が、パラシュートでチェコに潜入し、プラハの対独レジスタンスのメンバーと協力しながら、計画の実現に全力をつくす過程を描く。その結果、警備の隙間をついてハイドリヒの乗った車を襲撃し、ハイドリヒを死に追い込むことまではできた。だが、ハイドリヒ殺害にたいするナチ側の報復が凄惨をきわめ、数千人の関係のない人々が虐殺されたほか、計画にかかわったチェコ人は悉く死ぬ。主人公の男たちも、敵との戦いにおいて死を遂げるのである。

映画は、ハイドリヒ暗殺に向かってすすむレジスタンスの人々の動きを描く前半部分と、ナチ側の復讐を描く後半部分からなるが、より迫力があるのは、後半部分である。ハイドリヒ殺害に激怒したナチが、見せしめのために無関係な村の住民を虐殺したり、嫌疑をかけた人間に拷問をかけたりする場面が、息を飲むような緊張感を覚えさせる。一方、前半部分では、二人の男のそれぞれの恋が挿話として挟まれたり、映画として見せるような工夫もされている。

実行部隊の二人の男たちは、自分らの任務に疑問を抱いていない。命令を遂行するのが自分たちの役割だと思っているだけだ。その任務を実行すれば、普通のチェコ人にどのような影響が及ぶかはまったく考えていない。そのことで彼らを批判するのは酷かもしれないが、すくなくとも彼らに命令する立場である亡命政権には、大局的な判断が求められるところだろう。

もっともこの映画は、イギリスが作った作品であり、チェコ人の立場を反映しているとはいいがたい。或る意味、イギリスにとっては、チェコ人個人の運命はどうでもよいことなので、要するに憎きナチスをぎゃふんといわせれば、溜飲を下げられるのである。






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